会社で、30代中堅社員の悩みどころの1つが、部下や後輩の育成だ。
あまり懇切丁寧に教えても、自分の頭で考えなくてもいいのだ、と誤解する奴が出る。ちょっと厳しくするとパワハラだと騒がれる。かといって放任し過ぎると、とんでもない失敗を平気でやらかす。一体どうしたらいいのだか……。
『三国志』のなかで、この部下育成の名人といわれているのが、呉の孫権だ。孫権の配下には、呂蒙(りょもう)という将軍がいた。幼いころから実戦でたたき上げ、戦いにはやたら強かったが、学問はほとんどないような人物だった。
ある日、孫権は、彼にこう切り出す。
「いまやそなたも重要な地位についている。少しは学問を習って自己の向上に励んでみたらどうかな」
しかし、呂蒙は完全に逃げ腰だ。
「軍務多忙で、そんなヒマはとてもございません」
すると孫権は、
「なにも学者になれというのではないのだ。歴史を勉強せよ、といっているのだ。多忙だというなら、わしのほうが余程多忙ではないか。それでもわしは小さいときから古典に親しみ、王となってからも歴史書や兵法書に目を通して、ずいぶん教えられるところがあると思っている。
そなたは覚えがはやい。勉強すれば必ず得るところがあるはず。どうして習おうとしないのか。当面はまず『孫子』『六韜(りくとう)』『左伝』『国語』、さらには『戦国策』『史記』『漢書』を読むがいい」
このやりとりをきっかけに、呂蒙は学問に目覚め、『三国志』の著者陳寿が「国士の量あり(国を支える器量の持ち主)」と評する人材へと成長をとげたのだ。
この話の最大のポイントは、孫権の推薦書の選び方にある。