一方、この当時、人を見抜くことがうまかった英雄といえば曹操と劉備の2人になる。ともに共通しているのは、幼少の頃から厳しい現実や人間関係に投げ込まれ、鍛え上げられたことだ。

逆に、温室で育てられてしまった現代の2代目や、戦乱を避けた孔明には、こうした経験が決定的に欠けがちになる。人を見抜く知恵や勘は、現実にもまれてはじめて身につくもの、坐学だけでは歯が立たなかったのだ。

孔明自身も、自分の弱点は自覚していたようで、こんな文章を残している。

「なにがむずかしいといって、人間を見分けるよりもむずかしいことはない。なんとなれば、善人が必ずしも善人らしい容貌をしているとはかぎらないし、悪人が悪人らしい容貌をしているとはかぎらないからだ」(将苑)

しかし、孔明が見事だったのは、この弱点を克服すべく努力を重ね、その結果、7項目の人物鑑定法を編み出していったことだ。

1、ある事柄について善悪の判断を求め、相手の志がどこにあるのかを観察する。
2、言葉でやりこめてみて、相手の態度がどう変化するかを観察する。
3、計略について意見をもとめ、それによってどの程度の知識を持っているのかを観察する。
4、困難な事態に対処させてみて、相手の勇気を観察する。
5、酒に酔わせてみて、その本性を観察する。
6、利益で誘ってみて、どの程度清廉であるかを観察する。
7、仕事をやらせてみて、命じた通りやりとげるかによって信頼度を観察する。(将苑)

この方法は、うまく機能したようで、孔明の後継者たちは、見事な手腕を発揮した。知恵者の真髄とは、自分の弱点を克服しうる叡智にこそ、現われてくる。