また、この制度下では、職場によっては上司と部下が顔を合わせる機会も減るだろうから、あらかじめ求める労働、役割とその成果を、双方が納得するレベルまですり合わせ、取り決めておく必要がある。これにあわせて、裁量労働に従事する社員のモチベーションを保つためにはフィードバックに関する取り決めも必要となるだろう。

「働き方改革」は「仕事の与え方」改革とセット

昨今の「働き方改革」、その流れでの裁量労働制であるが、「働き方改革」は「仕事の与え方」改革とセットで考えなくてはならない。多すぎる定例会議、担当者が仕事を進める上で多すぎる承認行為(稟議)などの存在が、「働き方改革」を妨げているのだ。

「働き方改革」は「今まではやっていたけど、今後やらないと決めることはなにか」を「これまでの仕事の与え方にムリ、ムダ、ムラはないか」等を、全社をあげて検討するところから始めてしかるべきである。

裁量労働制下では、労働者は高い自己管理能力を発揮しなければならないのはもちろんのこと、求められる役割や成果に対して、自分の能力や経験は十分かを常に問いかけることが求められる。そして不十分という答えが出たのであれば、自己の責任において会社や上司にその旨を伝え、必要なサポートを求めなければならない。

なお、使用者および会社は、制度導入の趣旨に照らした適切な環境整備はもちろん、労働者から求めがあれば真摯に応じられるよう、サポート体制も整備しておくべきだ。

最後に、裁量労働制は本来であれば、企業にとっては存続、繁栄にかかわる試金石となり、社員個人にとってはキャリア自律、自立にかかる試金石となるはずである。

そうなるためには、労使双方がそれぞれの立場で、今から未来に向かうビジネス環境の著しい変化や、変化の中から生まれ出た当該制度を正しく捉えることが必要だ。

何より、まずは一部の近視眼的なトップこそが、グローバルスタンダードが求める労働への、社会への、そして制度への無理解を正してほしい。

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント/アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年生まれ。早稲田大学卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン/朝日監査法人(現KPMG/あずさ監査法人)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの経営人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。著書に、『いらない課長、すごい課長』『いらない部下、かわいい部下』『すごい上司』『儲けの極意はすべて「質屋」に詰まっている』など。
(写真=iStock.com)
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