裁量労働制についての議論が活発になっている。その中には「定額働かせ放題」という厳しい批判もある。人事コンサルタントの新井健一氏は「裁量労働制は絶対悪ではなく、労使ともにメリットのある制度だが、このまま導入すればブラック企業を助長することになる」と指摘する。裁量労働制の問題点と改善策とは――。

このままではブラック企業を助長するだけ

いま働き改革案、裁量労働制に関する国会の議論が世間をにぎわせている。

議論を紛糾させたのは、裁量労働制についての懸念、そして政府、省庁の説明のまずさだ。

写真=iStock.com/South_agency

そもそも裁量労働制の範囲が拡大すれば、ブラック経営者が“社員は自らの裁量で日々の労働時間をコントロールしながら、個人のライフスタイルに合わせて自由に働くことができる”と謳いながら、実は社員に残業代を払うことなく過重労働を強いることが可能となり、使用者がますます労働者を搾取することになりかねない。いわばブラック企業のブラックさを助長するという懸念は拭えないだろう。

政府は「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と説明したが、このデータがデタラメで、火に油を注ぐ結果となった。厚生労働省が調査集計したデータであるが、比較の前提が間違っていた。

「1カ月で最も長く働いた日の残業時間(一般労働者)」と「1日の労働時間(裁量制の労働者)」という全く違う質問のデータを比較して、「(裁量性の労働者の)労働時間は一般労働者よりも短い」と言ってしまった。さらに、野党から集計データ自体もおかしいと指摘されたのだ。

1万件を超える調査であるから、調査対象企業のミスリードにより提出された不適切データも相当数あるだろうが、集計側(厚労省)が意図的にデータを改ざんしていたとすれば、これは国民を欺く非常にいまいましき問題だ。

裁量労働制の「本質」とは何か

だが、いずれにせよ、国会における議論は、どうも本質から外れていってしまっていると思う。そこで、本稿では裁量労働制を正しくとらえた上で、どうして導入がうまく行かないのか、どうしたらうまく行くのかについて考えてみたい。

先に結論を言うと、裁量労働制は絶対悪ではない。しかし、国、そして経営者がしている身勝手な理解を見るに、今のままでは、彼らには扱いきれない制度だというしかない。働き方改革とともに、「仕事の与え方」改革が、まずこの国には必要なのである。

裁量労働制とはそもそも何であるか、確認しておきたい。裁量労働制とは、9時-17時など勤務時間の定めがあるような通常の雇用形態とは異なり、労働時間を実際に働いた時間ではなく一定時間働いたとみなす制度である。