平昌冬季五輪で競技に劣らず世界の注目を集めたのが、北朝鮮訪問団の電撃訪韓だ。防衛ジャーナリストの芦川淳氏は、「文在寅政権は『温北冷米』の態度を続けており、今後、在韓米軍の撤退もあり得る。そのとき韓国は北朝鮮による武力統一を受け入れるしかないだろう」という。芦川氏が北朝鮮主導による南北統一のシナリオを分析する――。
軍事パレードと「電撃訪韓」の合わせ技
今回の平昌冬季五輪では、北朝鮮訪問団の電撃的な訪韓や、南北合同チームの結成など、南北関係に多くのサプライズが生じている。
2月11日付の朝鮮日報は、10日に行われた文在寅・韓国大統領と金与正・朝鮮労働党中央委員会第1副部長との会談において、金氏から文氏に対して早期の訪朝が要請されたと伝えている。併せて会談では、南北でアクセントや意味の違う言葉について、金氏は「まずそれから統一しなければならない」とユーモアを交えて語ったという。金正恩・朝鮮労働党委員長の実妹とされる金与正のソフトな印象は、強面に思われがちな北朝鮮のイメージ一新に役立ったことだろう。
その一方で、平昌五輪開幕の前日、北朝鮮は平壌で大規模な軍事パレードを行った。北朝鮮は毎年4月に朝鮮人民軍創設を記念するパレードを行うが、今回のパレードはそれを平昌五輪に向けて前倒ししたものと見られ、テストに成功したばかりの最新型弾道ミサイルから、これまた最新型の小銃まで、近代化に成功しつつある北朝鮮軍の威容が伝えられた。金正恩の側近中の側近である金与正、美女揃いの音楽団や応援団を平昌五輪会場に送り込んで来たこととは、実に硬軟対照的である。
この一連の北朝鮮の行動は、大仕掛けの工作活動だ。弾道ミサイルに象徴される巨大な軍事力を直視した韓国の国民は、同時に微笑み外交の優しさも味わい、北朝鮮に対して「頼もしさ」と「親しみ」を感じたことだろう。そして民族融和の幻想は、長く韓国の防衛に心血を注いできたアメリカへの離心を加速させる。オリンピックの場を見事な政治ショーの場として活用した、北朝鮮側の勝利である。