2018年2月、トランプ政権は今後5年から10年間の核政策の指針となるNPR(核戦略体制の見直し)を発表した。そこには、オバマ政権下でストップしていた核抑止力の近代化の再スタートとともに、新型戦術核兵器の運用が盛り込まれている。出力と射程を絞った小型核兵器の投入は、戦略核兵器と通常兵器のギャップを埋めるものであり、ロシアや中国や北朝鮮による、戦術核を用いた先制核攻撃への対抗策(戦力の非対称性を解消することで得られる抑止力)と考えられる。
アメリカのスキを突いて南北が電撃休戦?
そうした背景を踏まえて朝鮮半島情勢の推移を探れば、今後、北朝鮮は急速に統一へのアプローチを強め、手始めとして南北間の休戦状態の解消を画策する方向に進むと考えられる。北朝鮮にしてみれば、米軍の現有戦力がいまの小回りの効かない状態から、NPRを受けて総合的な作戦能力を獲得するまでの間に先手を打つ必要がある。
新型戦術核兵器の装備自体は短期間でスタンバイ可能だが、米軍がそれを用いた作戦能力を検証し確立するには、短く見積もって2年から3年の時間を要する。その間に、南北首脳会談から電撃的な和解へと話が進み、続いて南北が双方の軍隊を互いに駐留させる形で、38度線の形骸化を目指すシナリオがあってもおかしくない。
これが2年前までなら、状況はまったく違っていた。当時は北朝鮮の核戦力は完成にほど遠く、いつでも米軍による空爆をもって独裁体制に引導を渡せる環境にあった。だが、アメリカはクリントン政権時代、当時の金泳三韓国大統領の拒否にあって絶好の機会を逃して以来、実質的には足踏み状態のまま、事態悪化の底なし沼に落ち込んでいる。
「南侵」による武力統一の可能性も
それどころか、北朝鮮軍の南侵によって、朝鮮半島が武力統一される可能性さえ否定しきれない。文在寅政権は、米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の返還に積極的で、今回のオリンピックでのおもてなしに見る「温北冷米」の態度からも読めるように、「自国の防衛力の無力化」に力を尽くしている。アメリカにしても、朝鮮半島の防衛にかつてのような国益を見いだせず、むしろ背後に控える太平洋の航行の安全のために、日本列島を新たな38度線とする方向へとかじを切りつつあるのが現状だ。