韓国の文在寅大統領が記念式典で「あなたのための行進曲」の斉唱を指示したことが議論を呼んでいます。この曲は一部から「北朝鮮を賛美し、国家を否定する内容が含まれる」と指摘されているからです。文大統領は、なぜこの曲にこだわるのか。その背景には1980年の「光州事件」というトラウマがあります――。
民主化運動の聖歌か、北朝鮮賛美か
「あなたのための行進曲」という、韓国の歌をご存知でしょうか。1980年5月、韓国の光州で、デモをしていた群衆に軍が発砲し、多くの死傷者が出ました。「あなたのための行進曲」は、この光州事件の犠牲者たちを追悼するために作られた歌です。光州市民は、この歌を涙なくして聴けないそうです。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年5月18日、光州事件の犠牲者を追悼する記念式典で、「あなたのための行進曲」を斉唱するよう指示し、自ら式典参加者とともに、歌いました。このことに対し、韓国国内で批判の声が上がっています。韓国の保守派は、この歌には北朝鮮を賛美し、国家を否定する内容が含まれると主張します。光州事件を題材に北朝鮮で作られた映画で使われたことも、その理由の一つです。
この歌が作られた光州事件とは、果たしてどんなものだったのでしょうか。
学生デモが大規模衝突にエスカレート
韓国では1979年10月26日に朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が暗殺された後、12月12日に全斗煥(チョン・ドゥファン)保安司令官らが「粛軍クーデター」を起こし、実権を掌ります。
1980年、4月の新学期がはじまると、全南大学をはじめとする光州の大学生は全斗煥らの軍部クーデターに抗議し、デモを行います。これに、市民も加わり、5月16日、デモは5万人に膨れ上がります。警察は学生たちを次々と逮捕しましたが、手に負えず、17日には全土に戒厳令が布告され、野党指導者の金泳三(キム・ヨンサム)、金大中(キム・デジュン)らを逮捕しました。
18日には、学生と軍隊が衝突、市民も学生を支援し、光州市内は騒乱状態となります。市民はバリケードを築き、火炎瓶などで応戦しました。