韓国政府は毎年5月18日を、光州事件の公式記念日に指定しています。1998年から2008年まで、「あなたのための行進曲」はこの日の記念式典で斉唱曲として歌われてきましたが、保守派の李明博(イ・ミョンバク)が大統領になると、合唱曲に格下げされました。

斉唱曲は全員が歌うべきもの、合唱曲は歌いたい人だけが歌うものです。「君が代」を歌う際には、「国歌斉唱!」と掛け声がありますが、「国歌合唱」とは言いません。李明博政権に続き、朴槿恵政権でも、「あなたのための行進曲」は合唱曲のままでした。

それが、文大統領の指示によって9年ぶりに再び斉唱曲となったわけです。文大統領は昨年の記念式典で、こう演説しました。「文在寅政府は、光州民主化運動の延長線に立つ」。

韓国でデモが頻発するのはなぜか

光州事件の実態は恐らく、韓国のいつもの左派デモが過熱化しただけのものと思われます。軍事政権時代にはとくに、左派デモはひんぱんに起きており、珍しいものではありませんでした。最近では朴槿恵を退陣に追い込んだ「ろうそくデモ」なども記憶に新しいところです。(ちなみにこの「ろうそくデモ」でも、労働組合団体などが「あなたのための行進曲」を熱唱していました)。

2015年にはソウルで、光化門広場に国旗の掲揚台を設置することに反対する市民団体が激しいデモを行い、鉄パイプを振り回し、警察車両を壊しました。デモ隊は顔をマスクで覆って暴れたため、国会は「覆面禁止法案」を制定。軍事政権時代に使われた「騒擾罪」を適用し、暴徒を捕らえて厳罰に処しました。

とはいえ、どこの国でもいつの時代でも、左翼的な発想を持つ人間はいます。それをいちいちスパイだの「北朝鮮の陰謀」呼ばわりするのは適切ではないでしょう。

韓国は異常な格差社会です。所得上位10%への富の集中度は、アジアの主要諸国中、最高水準(*注2)。財閥一族の多くが、他の財閥一族や政治家・官僚と婚姻関係を結び、昔も今も既得権層を形成しています。しかも、富の再分配を可能にする仕組みも韓国にはありません。貧困に追いやられる一般国民は常に不平不満を抱いているため、激しいデモや反権力運動が発生する土壌が慢性的に存在するのです。