これは、アメリカが北朝鮮の非核化を断念することにもつながる。一方の当事者である韓国が非協力的なままの状況で、朝鮮半島の非核化を強引に推し進めれば、アメリカの財政的・軍事的負担は天井知らずになるからだ。それよりも、日本を北朝鮮や中国の核ミサイルを防ぐ巨壁としたほうが、アメリカにとっては合理的である。
近い将来において陸上自衛隊への導入が検討される「イージス・アショア」は、まさに日米双方の利益を形にしたものだ。わが国全域のBMD(弾道ミサイル防衛)を可能にするだけでなく、アメリカ本土に向かう弾道ミサイルの迎撃にも力を発揮するからだ。
北朝鮮軍の進撃を韓国は止められない
こうした不安定な安全保障環境にあって、核兵器と弾道ミサイルという金の盾を手に入れた北朝鮮は、「南侵」という強硬手段を有効な手札のひとつとして強く認識しているはずだ。韓国防衛への米軍の影響力低下がある値を超えて進んだとき、北朝鮮は南侵へと歩を進めるかもしれない。いざそうなれば、ソウル、釜山(プサン)、大邸(テグ)といった、政経中枢と軍事的要衝がセットになった地域は、開戦と同時に弾道ミサイルの飽和攻撃に晒(さら)され、その後、北朝鮮軍の略奪的侵略を受けることになる。
初撃で指揮系統を破壊された韓国軍は、その後に続く北朝鮮軍の進撃を迎え撃つことができないだろう。優れた人員や装備があっても、各部隊がバラバラに活動したのでは、総合的な戦闘力を発揮できない。そもそも米軍の統制と協力ありきの組織構成をとっているのが韓国軍だが、先述したように文在寅は、戦時作戦統制権の米軍からの早急な移管を志向している。
そして忘れてはいけないのは、これが同じ民族同士の戦いであるという点と、すでに韓国の国内に北朝鮮による工作が浸透している点だ。北朝鮮軍が進撃する先々で、彼らを歓待する人々が現れるだろう。