重要な約束を忘れる。ボーっとしている時間が長い……実家の親の様子がおかしいとき、認知症を疑うべきかもしれない。動揺しては、事態は好転しない。冷静に正しく対応するため、必要な知識をご紹介しよう。第2回は「脳では何が起きているか」――。(全5回)

細胞が減ることで萎縮していく脳

認知症が発症したとき、脳では何が起きているのか。脳変性疾患の場合、脳にたまった異常タンパク質が脳の神経細胞の働きを邪魔することで、病的変化が起こっていく。

アルツハイマー型認知症には脳が萎縮する病気というイメージがあるが、それは脳細胞が死んで減っていくためだ。MRIやCTなど画像診断による検査をすれば、脳のどの場所が縮んでいるかがわかる。アルツハイマー型なら頭頂葉か側頭葉の内側部、レビー小体型なら後頭葉、前頭側頭型なら前頭葉と側頭葉。また働きが鈍っている脳の部分は血流が少なくなるため、血流の様子を見る検査・SPECTも病気の発見に役に立つ。

「認知症は特徴ある場所からスタートしますが、病気が発症しておよそ15~20年たつと脳全体に及びます。最後はみんな寝たきりの似たような状態になるんです」(勤医協中央病院名誉院長・伊古田俊夫氏)

ゴールは同じでも、どのタイプかを知っておくことには意味がある。それは脳の侵される部分によって、今後表れる症状がある程度予測できるからだ。

アルツハイマー型は記憶を司る脳内の海馬が萎縮するため、「もの忘れ」や、現在の日時や今自分がいる場所の感覚があいまいになる「見当識障害」などが初期症状として表れる。

レビー小体型は気分の高揚や落ち込み、動揺が見られる。またかなり高い確率で「幻視」の症状が目立つため、最近まで統合失調症として診断されるケースもあった。

前頭側頭型は、やさしかった人が粗暴にふるまう、真面目な人がだらしなくなるなど、人格や性格の変化が最初の異変として気づかれることが多い。これは社会のなかで人間関係を保つために働く前頭葉内側面が侵されるためだと考えられている。

「脳卒中が原因の血管性認知症では、脳のどこに脳梗塞や脳出血が発生したかによって症状が異なります。大脳のなかの言語中枢に発生すれば、文字の読み書きができない、意味不明な話をするなどの症状が表れる。家族が『昨日まではなんともなかったのに』と驚くことが多いのが、ひとつの特徴です」(同)

伊古田俊夫
1949年生まれ。勤医協中央病院名誉院長。社会脳科学の立場から認知症の臨床研究を進める。近著に『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社ブルーバックス)
 
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