重要な約束を忘れる。ボーっとしている時間が長い……実家の親の様子がおかしいとき、認知症を疑うべきかもしれない。動揺しては、事態は好転しない。冷静に正しく対応するため、必要な知識をご紹介しよう。第3回は「どんな薬があるのか」――。(全5回)

認知症は完治しなくても薬を飲むのは大切

「認知症は原因となる病気によっては治療可能ですが、アルツハイマー病などで脳が萎縮した場合、元には戻せません。いくつかある薬も、症状をやわらげることしかできないんです」

写真=iStock.com/Ca-ssis

そう説明するのは武蔵野大学薬学部教授の阿部和穂氏だ。しかし、薬を飲む行為はムダではないと強調する。

「風邪をひいているときに薬を飲むと、楽になりますよね。症状がちょっと軽くなれば患者さんが落ち着いたり、ご家族が楽になったりして、それだけで安堵感がある。そうすればたとえ完治しなくても、病気の進行が少しゆるやかになるかもしれない。認知症の薬にはそういう効果が期待できるのです」

認知症の症状をやわらげる薬は大きく分けて2種類ある。ひとつは、行動や心理の症状をコントロールするための薬だ。具体的には、興奮しやすく暴言・暴力が著しい場合、興奮をしずめるための抗精神病薬や抗てんかん薬、意欲の低下、不安、不眠に対しての抗うつ剤や抗不安薬、睡眠導入薬などである。

漢方薬が認知症に使われることもある。代表的なのは7種類の製薬を配合した「抑肝散」。「肝」が表す心や精神を落ち着かせる薬で、これも周辺症状を軽くするのが目的だ。

もうひとつは認知症の中核症状である認知・記憶障害を改善する薬である。アルツハイマー型認知症患者の脳内では、アセチルコリンという神経伝達物質の分泌が低下することで、記憶力が低下すると考えられてきた。その働きを強める薬が、ドネペジルである。

「日本ではエーザイが出している先発品『アリセプト(R)』がもっとも有名です。近年、特許が切れたため、ジェネリック薬品が一般名『ドネペジル』として出回るようになりました」(阿部氏)