大きな社会問題になっている「認知症」。治療は困難と思われてきたが、最新の研究から、予防と回復の方法が明らかになってきた。大切なのは早期発見。そのポイントは「歩く速度」だという。NHKで認知症に関する多数の番組を手がけてきた科学・環境番組部の青柳由則チーフ・ディレクターに聞いた――。
「年のせい」にすると手遅れになる
認知症の人の数がますます増えている。厚生労働省の研究班の試算では、2025年には730万人に達する。急増の理由は、高齢者が多くなったからだけではない。認知症になる人の割合が増えているのだ。65歳以上の5人に1人がなってしまう。
「放っておくと、2060年には1000万人を突破します。自分自身だけでなく、奥さんや両方の親を含めると6人になりますから、そのうちの誰が認知症になってもおかしくありません。いや、むしろなると覚悟したほうがいいでしょう」
そう話すのは、NHKのチーフ・ディレクターとして、医療の最前線を取材する青柳由則氏。この6年あまり、認知症をテーマに世界中の研究者や医師を訪ね、「NHKスペシャル」などで取り上げてきた。
番組制作を通して驚くべきことがわかった。根本的な治療法はないとされている認知症も予防と早期発見で従来の生活を維持できるという事実だ。ポイントはMCI(軽度認知障害)と名づけられた認知症の一歩手前の段階である。ここで気がつき、適切に対処できれば進行を抑え、場合によっては正常レベルに回復するという。
「私が使わないようにしている言葉があります。それは『年のせい』です。もの忘れがひどくなったとか、動きが緩慢になったと感じたら、年齢を理由に『仕方ない』とあきらめるのではなく、MCIを疑ってください。そうでないと、取り返しのつかないことになってしまいます」(青柳氏)