睡眠不足は極めて危険!

こう提案する青柳氏は、手首にリストバンド活動量計を着けている。これは、1日の歩数や早歩きなどのアクティブ時間、移動距離、消費カロリーを測定し、データをスマホに送信してくれる。運動の“見える化”が可能になりモチベーションも上がる。

実は、運動が自分のためになるとわかっていても続けることは意外に難しい。専門的には生活変容というが、それまでの習慣を活動的なライフスタイルにチェンジしていくことにはそれなりの努力が必要だからだ。

だからこそ毎日、その日の活動量を確かめ、手応えを感じることが大事なのである。ちなみに、インタビュー前日の青柳氏は、1万2000歩、ビルを22階まで上るのと同等の運動をしていた。

しっかり活動することは、睡眠にもいい。ところが、現代のビジネスマンは残業続きだ。十分に眠れないと、脳にアミロイドβという物質が蓄積され、アルツハイマー型認知症を引き起こすことがわかっている。つまり、睡眠不足は極めて危険だといっていい。まして、徹夜などすると一晩で一気に増加してしまう。

「睡眠をしっかりとると、朝スッキリと目覚めることができます。こうした気分だけではなく、脳から老廃物を排出するという大切な作業も眠っている間に行っているのです。運動によって睡眠の質が上がり、認知症の発症が抑えられます」(青柳氏)

現役ビジネスマンの親の世代であれば、やはり早めの気づきが認知症への最善の対応になる。前述のMCIであるかどうかは、日常生活におけるちょっとした変化で見つけることができる。

例えば、MCIになると、信号機が青に変わったとき、以前は楽に横断歩道を渡れていたのに、信号が赤になるまでに道路の反対側に行けなくなってしまう。65~69歳の男性が1秒間に進める平均距離は約1.4メートルだ。一般的に信号機は青が点滅するまでの間に毎秒1メートルで歩けば渡りきれるように設計されている。それができないというのは要注意だ。

そこで青柳氏は、盆や暮れに帰省したときに、親を散歩に誘うことを勧める。一緒に歩いていて、「あれ、ずいぶんゆっくりで歩幅も短いな……」と思ったら、近くの医療機関に連れていくべきだという。

「おそらく嫌がるかもしれません。それは認知症と診断されるのが怖いからです。これまでは、神経内科や脳神経外科、精神科を訪ねましたが、最近では、もの忘れ外来(認知症外来)を掲げる専門病院も全国にあります。ぜひ、利用してください」

青柳由則
NHK科学・環境番組部チーフ・ディレクター
1969年生まれ。横浜国立大学卒業後、94年にNHK入局。認知症に関しては6年間にわたって世界中の研究者を取材し、最新の知見をNHKスペシャルなど数々の番組で紹介してきた。著書に『認知症は早期発見で予防できる』。
【関連記事】
睡眠時間を削るのは最悪の選択
認知症の老親「ドッグセラピー」で復活するか
生活習慣病を撃退!「スロージョギング」の底力
「ロカボ=緩やかな糖質制限」は万病に効く
本当は恐くない国民病「認知症」の正体