目の前にある食べ物や飲み物は、はたして体にいいのか、悪いのか。ボストン在住の医師・大西睦子先生がハーバード大学での研究や欧米の最新論文などの根拠に基づき“食の神話”を大検証します。

ポテトチップスやハンバーガー、インスタントラーメン、菓子類、甘い清涼飲料水などは、高エネルギーで塩分、糖分、脂質を過剰に含むことが多く栄養が偏っています。しかも良質なタンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養価は低いことから「ジャンクフード(がらくた食品)」と呼ばれることもあります。それらを過剰に食べ続ければ、体に悪いことは誰もが知るところ。肥満、糖尿病、心臓病など生活習慣病の原因となります。

さらに最近の研究では、ジャンクフードが脳にも悪影響を与えることが明らかになってきました。豪ディーキン大学のフェリス・ジャッカ教授が、60~64歳の255人を対象に行った調査を、15年に医学雑誌に発表したものです。

参加者はまず、生活習慣に関するアンケート調査により、(1)新鮮な野菜、サラダ、果物や魚を摂取している健康的な食事のグループ、(2)焼き肉、ソーセージ、ハンバーグ、ステーキ、ポテトチップスや清涼飲料水を摂取している不健康な食事のグループに分けられました。

注目されたのは脳の「海馬」です。海馬は学習や記憶、抑うつなど気分の調節に関与しています。また成人でも「ニューロン(神経)新生」と呼ばれるくらい新しい神経細胞をつくるまれな脳の領域です。(1)の参加者は、平均的な食事パターンの人より左海馬の体積が45.7平方ミリメートル大きめでした。(2)の参加者は、平均的な食事パターンの人より左海馬の体積が52.6平方ミリメートル小さくなっていました。

ほかの研究者も、ジャンクフードによる脳の機能低下を次々と報告しています。19~28歳の健康な男性を、(1)脂肪70%の高脂肪食グループ、(2)脂肪24%の標準的な脂肪食グループに分けた試験では、(1)のグループは注意力や処理能力が低下しました。脳卒中の既往歴がない35~55歳の成人を対象にした研究では、加工食品の摂取が、語彙や言葉の流暢さを低下させるとしています。子供たちも同様で、6~7歳の子供に血糖値を急上昇させる食事を摂取させた後、注意力や記憶力の低下が認められたという報告もあります。

 
大西睦子
内科医師・医学博士。東京女子医科大卒業。国立がんセンター、東京大学を経て、2007年から13年まで、米国ハーバード大学リサーチフェローとして、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。著書に『健康でいたければ「それ」は食べるな』『カロリーゼロにだまされるな』など。
(小澤啓司=構成)
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