リーマン・ショック以降の「100年に一度」の大不況の中で、日本のホテル、旅館等の宿泊業界が大苦戦している。
まずは表をご覧いただこう。これは都内の主要ホテルの5月の客室稼働率、客室平均単価(ADR)、客室一室あたりの収益(RevPAR)の速報値をまとめたものだ。宿泊部門のみに限定されたデータだが都内のホテルの現状がいかに悲惨な状態かよく分かる。
華々しくオープンした外資系ホテルは、壊滅状態だ。ザ・リッツ・カールトン東京がADRを対前年比で1万円以上落したにもかかわらず、稼働率は前年より落ちている。マンダリンオリエンタル東京も、ADRが5000円以上ダウン、稼働率も51.6%。ザ・ペニンシュラ東京も、ADRが4万4062円で、稼働率は59.3%。最後発のシャングリ・ラ東京は、ADRが5万円台と超強気に出た分、稼働率は42.1%まで落ち込んだ。業界では、客室稼働率が6割を切ると「危険水域」に入ったと言われるから、大半のホテルが危ない。稼働率を上げるには、ADRを安くすればいいが、それでも数字が伸びない。結局、一室あたりの本来の儲けを示すRevPARも低くなる。
国内勢も同じく苦戦。かつて「御三家」と呼ばれた帝国ホテル、ホテルオークラ、ニューオータニと揃って低迷中である。
ある都内ホテルの総支配人は、「毎月2億円近く赤字が膨らむ。もう決断すべきところに来ていると思いますよ」
「決断」とは、正社員のリストラ、客室やレストランの一部閉鎖、外資系の場合は、日本市場撤退やブランド変更である。リーマン・ショック以降、各ホテルは契約社員のカットや仕入れ先の見直し、正社員による客室清掃等の涙ぐましい努力で、低迷状況を乗り切ってきた。だが、一向に客足は戻らない。2009年6月、ザ・リッツ・カールトン東京の名物総支配人リコ・ドゥブランク氏が海外に異動したのも、東京市場の回復には時間がかかるとの判断を経営陣が下した証拠と、業界では受け止められている。
旅館はより深刻である。厚生労働省によると、2007年度末の国内の旅館数は、1980年のピークから約4割減った。金融不況で、融資していた地域の銀行が貸しはがしに近い形で債権回収を行ない、各地域を代表する老舗旅館が次々と倒産もしくは、運営を譲渡されている。
※すべて雑誌掲載当時