昨年末、京都・寺町にオープンしたホテル「9h(ナインアワーズ)」が注目を集めている。9hはカプセルホテル。といっても、飲んで終電を逃したビジネスマンが、とりあえず寝るところがほしいと利用するような従来のカプセルホテルをイメージしてはいけない。

9hのカプセル。中に入ると意外に広い。1泊4900円。目覚まし時計はなく、寝室環境システムが光の変化で目覚めに導く。

9hのカプセル。中に入ると意外に広い。1泊4900円。目覚まし時計はなく、寝室環境システムが光の変化で目覚めに導く。

9hは気鋭のプロダクトデザイナー柴田文江氏を総合デザインに起用した、いわば“デザイナーズカプセルホテル”。内装、カプセル本体、館内着、スリッパ、はては数字の書体までオリジナルに開発するというこだわりでつくられたスタイリッシュなホテルだ。

はじめて9hを利用するとその高いデザイン性にまず、目を奪われる。だが、従来のカプセルホテル愛用者なら、あるはずのものがないということのほうにもっととまどうかもしれない。

テレビがない。自動販売機もない。新聞も雑誌も、BGMすら流れていない。9hは「汗を流すこと」「寝ること」「身繕い」という宿泊に最低限欠かせない行為のためだけにホテルの機能を徹底的に絞り込んでいるのだ。

そのかわり、生体のリズムに合わせて明かりが変化して、睡眠の自然な導入と覚醒を促す寝室環境システムをカプセルに搭載するなど、睡眠や汗を流すことを質の高いものにするための工夫が手を抜かずに取り入れられている。

関西では昨年4月、大阪・難波にカプセルのかわりに広さ4.2平方メートルの“キャビン”に宿泊するニュータイプのホテル「ファーストキャビン」が開業。カプセルホテルなどには縁のなかった若い女性利用者を獲得し好調だ。

2つのホテルはカプセルホテルの進化形というよりも、それぞれに新しいホテルのカテゴリーを創造する試みを行っているようにみえる。ホテルの空間と機能を問い直す新しい波が起こり始めているのかもしれない。

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