そんななか、怪気炎を上げる企業がある。全国のリゾートや旅館の再生事業を行なう星野リゾートの星野佳路社長だ。星野氏は、ホテル・旅館の現在の低迷は、金融危機とは別に理由があると指摘する。
「金融危機よりもう少し大きな経済トレンドの中、供給過剰とその修正が行なわれているんです。好況の時もあったが、不採算のためいつかは切らなきゃならないと思っていた事業を、この機会に一気に切ってしまおうとしていると思う」
星野氏は中長期的な視点から見て、日本の観光産業は、まだまだ需要もあり、可能性もあると語る。これまで需要のほとんどを海外旅行に持っていかれていたという「構造上の問題」があったと言う。
「世界の観光大国のトップ5は、フランス、スペイン、イタリア、中国、アメリカで、フランスの7600万人を筆頭に年間3000万人以上を集める。一方、日本に来るのは年間835万人。逆に年間1700万人もの日本人が海外旅行に出かけています」
日本の観光産業は、毎年様々な「言い訳」を考え、不振の理由としてきた。最大の言い訳が「100年に一度の不況」であり、もはや何も付け足すものがない。後は枕を並べて討ち死に状態である。だが、こうした状況でもマーケットを旧来より広く、グローバルに、柔軟に捉えて対応している宿泊業は伸びている。
たとえば、東京・西新宿の京王プラザホテル。客室数1438室を擁する巨大ホテルだが、5月の稼働率は85%。2008年とほとんど変わらない。客室単価も2008年から3000円強下がっただけだ。都内で、唯一といえる「勝ち組ホテル」なのである。
「当ホテルも2008年のリーマン・ショック以降、苦しんできましたが、豚インフルエンザが一段落して、香港、台湾からの旅行客がまず戻ってきた。彼らが日本で最も行きたい場所が新宿です。香港、台湾からの観光客の4人に1人が新宿に行ってみたいと言い、2009年夏の先行予約は2008年の7、8月に優るとも劣らない勢いです」と同ホテル宿泊部副部長兼レベニューマネジメント支配人の久保泰彦氏。立地の魅力に加え、アジアがダメなら欧米、逆に欧米がダメならアジアでと国・地域を問わず常に全方位的な営業展開を進めてきた。国内にも幅広く営業網を張り巡らし、豚インフルエンザで外国人旅行者が急減した2009年4月以降は、国内の旅行需要でピンチをしのぐ。
「今のお客様は、価格や施設などをネットで調べ、他のホテルと比較検討した上で、他者のコメントなどを見て、納得して始めて客室をお買い求めいただく。そんな感覚です」(同)。この新しいマーケット開拓のために、08年4月に国内・海外の「Eコマースセールス」チームを、マーケティング部内に発足させ、社内で出た斬新な商品企画をリアルタイムで、ネットに表示し、顧客の反応を確かめた。