日本が世界に誇るべき「観光資源」が、外国人の眼を通して発掘され、国際リゾートに変貌した場所もある。スキーを中心に、自然派志向のオーストラリア人観光客で賑わう、北海道のニセコだ。
「母国のオーストラリアの旅行会社や個人客に繋ぐパイプづくりを行なっただけで、ニセコを訪れる外国人観光客が増えました」と仕掛人の一人、ニセコビレッジのルーク・ハッフォード支配人は言う。
働きバチの日本人は、「観光」というと仕事の合い間の遊びと考えるが、欧米人は逆で、遊ぶために働く。欧米人やアジア人の新興富裕層を「顧客」としてみると、素晴しい資源が全く手つかずのまま残されていることに気づく。
「外国人の観光専門家の間で“トリックル・ダウン・イフェクト”と呼ばれる、経済の波及効果がある。すなわち、ニセコの山頂からスキーヤーが転がす小さな雪の玉が、麓に行くに従って、次第に大きな固まりになり、地元経済を潤すという効果です。ニセコはまさにその典型例となりましたね」とハッフォード氏。
周辺には、外国人相手のリゾート・マンションが立ち並び、外国人客を迎える欧米風のレストラン、パブが軒を連ねる。
同じく、日本では「旅すること」が不要不急のイメージで語られがちなことに危機感を募らせる日本人もいる。
「旅行産業は、ともすれば日本では社会文化論で語られがちですが、海外では国の経済活動そのものの力を象徴するビジネスです」と旅行会社最大手のジェイティービーの田川博己社長は語る。
「日本はアジアの中での素晴しい環境を持つリゾート地として、世界の中で戦える。特に、豊かな自然が残されている北海道と沖縄は、日本の宝です」
筆者が仕事場を置く、長野県の軽井沢も明治18年、蒸し暑い日本で避暑先を探していたカナダ人宣教師、アレクサンダー・クロフト・ショーが、荒れ果てた宿場町に目を付け、日本に暮す外国人のための祈りの場として開拓したものだ。それが今、日本を代表する高原リゾートとなった。21世紀の国内観光業は、北海道、沖縄の二大観光地をはじめ、美しい自然の残った場所に外国人を顧客とした新たな「軽井沢」を創ることに始まる。ニセコは既に、北海道の軽井沢としての設備を整えた。グローバル化が進む現在、マーケット1億人の日本人のみに固執する方が経済原則に反しているのである。
そして、日本の観光産業が持つ「最大の宝」が、首都・東京である。戦後日本の繁栄財がうず高く集積されたこのメガロポリスを活性化させるには、日本人ではなく、外国人を「お客様」に据えた観光ビジネスを発達させるしかない。
世界一の観光都市といえば、フランスのパリだが、折から来日中のパリ観光・会議局のポール・ロール局長はこう語る。
「08年、パリを訪れた観光客は、約2900万人。パリには、2つの飛行場があり、6つの駅で外国への路線と繋がっています。地下鉄と地下鉄を結ぶ、自転車『ヴェリブ』のレンタルサービスも充実しています」
パリには、7万6199室のホテル客室があるが、四つ星(11.8%)、三つ星(40.3%)、二つ星(37.2%)、一つ星(7.8%)が中心で、四つ星デラックスはたった0.3%。世界の観光客を日常的に迎えるには、中高級ホテルを充実させることが重要なのだ。京王プラザが勝ち組となったのも、こうした世界のトレンドに合致しているからである。