政局に大混乱を招いた解散劇が終わった。「大義なき解散」と批判されるなか自民党の安倍晋三総裁は選挙で「消費税増税分の使途変更の是非を問う」としていた。元内閣官房内閣審議官(社会保障・税一体改革担当)で、能力の高さから「ミスター年金」「国有財産」とまで呼ばれた香取照幸氏が与野党の選挙公約の問題点を語る。

日本の財政赤字はGDPの約2倍

「snap election」(突然の選挙)。今回の日本の総選挙を諸外国のメディアはそう呼んでいます。実際かなり「唐突感」のある解散だったのではないかと思います。そのことは、各党の選挙公約の「急ごしらえさ加減」を見ても感じられます。そんな中、安倍総裁が「消費税増税分の使途変更」を訴えたことから、消費税が総選挙の争点の1つになっていました。

香取照幸●1956年、東京都生まれ。東京大卒。厚生労働省で年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任した。現駐アゼルバイジャン共和国大使。

この問題を考える出発点として、そもそも何のための消費税の引き上げだったのか、2012年に与野党で合意した社会保障・税一体改革(以下「一体改革」)ではどんな議論をしたのか。原点に立ち戻って確認をしておきたいと思います。

一体改革は、「財政健全化」「経済再生」そして「社会保障改革」を同時に達成するための改革です。この3つは深い相互依存の関係にあります。安定的な成長がなければ財政再建もできないし社会保障の財源も確保できません。社会保障が機能しなければ社会の安定と活力が失われ経済社会は発展しません。財政が健全でなければ政府は財源不足で機能不全に陥り社会保障はもちろん、あらゆる分野でその役割を果たせなくなります。どれ1つを欠いても経済社会が機能しなくなるのです。だから一体改革なのです。

日本の財政赤字はGDPの約2倍、第二次世界大戦敗戦直後に匹敵する巨額なものです。経済が成長軌道に乗れば金利は緩やかに上昇していきます。その前に財政収支を黒字化しておかないと財政赤字は縮小するどころか発散(増加)していってしまいます。なのでまず財政健全化を達成すること。そして一般歳出の半分は社会保障関係費ですから、年々歳々の財政赤字の半分は社会保障から発生しているといってもいい。このままでは社会保障の機能維持という観点からも財政健全化という観点からも持続可能性はありません。

社会保障の財源を将来世代の負担にせず現世代で負担するための消費税引き上げです。消費税を社会保障財源化し、社会保障の機能強化・機能維持に充当して財政赤字に頼らない社会保障財源の安定的確保を実現し、財政赤字を縮減して財政健全化を達成する。一体改革とはそのような考え方で設計された国民に負担を求める改革です。

歴史をひもといてみても増税を正面から掲げて総選挙を勝ち抜いた政権はまずありません。ですが、誰が政権を担当するにせよ避けて通ることのできない課題、財政健全化や増税は政争の具にしてはいけない、という共通理解ができたからこその与野党合意です。