敵対関係にある者同士が向かい合い、一触即発のムード――。個人間のトラブルが話し合いに持ち込まれたとき、交渉が進まないことがある。弁護士の石井琢磨氏は、「根本的な問題が隠れていることがある」と説明する。
例えば、訴える側が「騙し取られた金を返せ」と要求しながらも、内心では「裏切られたことを謝ってほしい」ことを強く願っている場合、本当に大事なのはお金ではない。相手の真の欲求を見抜かない限り、対処は的外れになってしまう。
一般的な弁護士の4倍の裁判をこなすという石井氏は冷静さを保つ一方で、相手の感情を必要に応じて誘導する。「欲求を探るのに、相手を怒らせるのも有効な手段。人は感情的になると、本音が出ます。金銭を要求されたら、低い金額を提示するなど、極端な案を出してみる。それに対して怒る相手に『どうしてダメなんですか?』と聞けば、理由を説明するから、だんだん本音が見えてきます」。
しかし、目の前の相手が憤っていると普通は動揺してしまうし、同じように怒り返せば話はこじれるだけ。自分自身が冷静さを保つ手段として、石井氏は「複数の自分がいるようにイメージするのがいい」とアドバイスを送る。
「怒られている自分を『頑張って耐えられるかな?』と他人のように俯瞰して見たり、『後でメンテナンスしておこう』とロボットのように考えてみる。そうやって感受性を薄めておくと、負の感情に汚染されにくくなります」