Google、Facebook、マイクロソフトが注目する「最新理論」
「周囲の人たちの何気ない言動や選択が、個人の購買や意思決定に大きく影響する」――。
ペンシルベニア大学のジョーナ・バーガー准教授は「社会的影響力」を駆使したマーケティング理論を提唱している。それにGoogle、Facebook、マイクロソフト、コカ・コーラなど名だたる企業が注目し、氏にはコンサルティングの依頼が多数舞い込んでいる。
最新刊『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)では、その社会的影響力を仕事にどう生かしていけばいいかが語られているが、今回はその中からプレジデントオンラインだけに「相手のまねをする」という方法をご紹介いただいた。最新の行動心理学の知見を駆使すれば、「まね」をするだけで相手を意のままに動かせる、というのだ。
MBAの演習での秘訣:「交渉相手の仕草をまねろ」
アメリカのある大学で、MBAクラスの演習としてロールプレイが行われていた。学生2人が、「ガソリンスタンドを売りたいオーナー役」、それを「買いたいエネルギー会社の担当者の役」になり、交渉を行う。
それぞれ企業や人物の設定を行った上で、互いが密かに希望する価格へどう折り合いをつけるか、交渉力をつけるのが目的だ。現実に即した交渉の場面を演じ、どのように相手の心理を探り、どの程度自分の情報を開示すればいいのか、そしてどのように取引をまとめればいいのか、学んでいくのである。
しかし、30分たっても、取引に終わりは見えない。
エネルギー会社の担当者役は41万ドルの買い取り価格を提示するが、売る側のオーナー役はそれを断り、65万ドルを提示。少しずつ提示金額をすり合わせていくが、なかなか合意には達しなかった。
このまま続けてもらちが明かない。そこで、担当者役の学生は教員のアドバイスを受け、あることを行った。それを使えば、交渉が合意につながる確率が5倍高くなる、魔法のような手法だという。
それは、「交渉相手のまねをすること」だった。
「たったそれだけ?」半信半疑ながら、その学生は言われたとおりにした。オーナー役が腕を組んだら、自分も腕を組む。いすの背にもたれたり、前のめりになったりしたら、同じ姿勢をとる。相手が笑ったら、自分も笑う。
こんな単純なことで取引の成否が左右されるとは、とても思えなかった。しかし、実際に試してみたところ、交渉はそこから大きく変わったのだ。
まねをしながら話を続けるうちに、オーナー役は次のような「本音」を漏らした。
「ガソリンスタンドを売却するのは、長期の休暇をとって、夢だった世界一周旅行に出かけたいからなんだ」
そうとわかれば、担当者側にも打つ手はある。
「でしたら、世界一周旅行から帰って来られたあとの仕事が必要では? このガソリンスタンドのマネージャー職をご用意できますよ!」
この結果、金額自体はオーナー役の希望する額には至らなかったものの、旅行から帰ってきた後に安定した仕事を得られることになり、満足のいくものとなった。担当者側としても、これまでこのガソリンスタンドを経営してきた、優秀なマネージャーを雇用できることになる。
相手のまねをする、という単純な行動ひとつで、相手の信頼を引き出し、交渉をよりよいものにしたのである。