なぜ、まねをすると信頼されるのか?

「まね」は人間の生まれながらの性質

相手のまねをすることが、なぜ信頼につながったのだろうか?  その答えは、「そもそも人間はまねをする動物だから」である。人間は、驚くほど周りのまねをして生きている。子どもの頃から、両親や周囲の人の話し方やくせ、規範をまねて身につける。友達ができれば、その友達のくせや遊びをまねる。周囲が勉強をサボっていれば、自分も勉強をしなくなりがちだ。そうして周りと同じ行動をとることで、友達や周囲と親密になっていく。誰しも実感することだろう。

そもそも社会的動物である私たち人間は、同じ慣習を持ち、同じ行動をとる人を仲間だと感じ、ポジティブなメッセージを受け取る。冒頭の、ちょっとしたくせという程度のまねであっても、無意識下で相手を好きになり、信頼するようになる。相手のまねをするのは「私はあなたの仲間ですよ」という密かなメッセージなのである。

相手に信頼されれば、あなたの話はもっと真剣に聞いてもらえるし、インタビューの場であれば、相手をリラックスさせ、本音を引き出しやすくもなる。

もちろん、このメッセージは仕事の場に限られない。婚活パーティーでは、話し方を似せたほうが、相手に「また会いたい」と思わせる割合が3倍になった。またすでにつきあっているカップルであっても、話し方が似ているカップルの方が、そうでないカップルより、3カ月後もつきあっている可能性が50%高くなる。

どんな場であっても、相手に気に入られたいと思うならば、このノンバーバルな方法を使わない手はないだろう。相手の意思決定を左右する、こんなに単純で効果的な方法はなかなかない。

間違いだとわかっていてもまねしてしまうことも

「相手のまねをする」という人間の性質は、私たちが考えているよりもずっと強力である。

図のうち、「左のカードの線と同じ長さの線はどれ?」という問題に答える実験があった。6人が席に座り、試験官から指名された順に答えていくというものだ。

参加者の1人は、「Cに決まっている」と思い、そう答えるのを待っている。しかし、先に指名された人たちは、みな「B」と答えていく。ついに、自分以外の5人がすべて「B」と答えてしまった。

「どうなっているんだ、自分がおかしいのか!?」と鼓動が早くなっていく。ついに、その参加者が指名され、答える番になった――。