「交渉で一番大事なもの? それは誠実さですね」。大物野球選手のメジャー移籍をサポートし続ける腕利きの交渉代理人・団野村氏は言い切った。交渉成立のため、あらゆる手を尽くす“策士”の印象が強いスポーツエージェント。正直、意外な回答である。

メジャーリーグ交渉代理人、KDNスポーツ代表取締役 団 野村氏

「私たちは『胡散臭い』『嘘つき』と思われていて、マイナスからのスタートだからこそ、嘘は許されません。『よそからもオファーがきている』、と嘘の情報で契約金を吊り上げても、後でバレるし、次の仕事にも影響する。そういう嘘の駆け引きは絶対しない。常に誠実さを持って、真実を伝えないと続かない」

野村氏が交渉で大事にしていることは、おもに3つあるという。1つ目の「誠実さ」に続き、2つ目は「市場調査」だ。かつてアメリカで不動産業をしていたとき、何かにつけて値切ろうとする医者たちとの賃貸契約の交渉を担当した。互角にやり合うには、近隣の家賃相場や開業に必要な機材、移転費用など医者の周辺事情を理解する必要があった。情報がないと、説得も譲歩もできないからだ。

「どんな優れた選手でも、同じタイプの選手が先に採用されれば必要とされないし、逆にギリギリまで待つことで市場価値が上がることもある。情報を集め、市場の流れをつかみ、初めて有利な交渉ができる」

そして、最後が「金額の根拠」だ。ダルビッシュ選手の交渉の際には、最初に先方からの提示された金額に納得がいかず断り続け、約2倍の金額を主張し続けた。

「交渉とは、一方が高い金額、一方が低い金額を提示して真ん中で折り合うことではなく、こちらの要求金額の根拠を見せて、相手を説得する作業です。これだけの投手は今後大金を生む価値があることはデータからわかっていたし、日本選手たちの土壌を広げるためにも妥協はできませんでした。ダルビッシュ選手も例外ではありませんが、通常、過去データを分析し、その選手のユニークさを強調して、相手を説得していきます」