なぜ、900人がワルに平均127万円も出したのか?

高齢者宅には、様々な勧誘電話や訪問業者がやってくる。

それを追い返すのはひと苦労で、商品を買えば相手の話が終わると思い、契約してしまう人は多い。しかしながら、その場しのぎの対応では、「あの家は、しつこく勧誘すれば、商品を買ってくれる」というレッテルが貼られてしまい、新たな勧誘を招くことになる。いいカモだという情報はすぐに悪質な業者間で共有されてしまい、どんどん深みにはまっていくのだ。

『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』多田文明(著)プレジデント社刊

ワルたちはしつこく押し売りして「契約するしかない」と思わせて、相手の根負けを狙ってくる手立てだけではなく、相手を頷かせるための様々な技をもっている。

今年10月、高齢者に高額な値段で布団などを販売していた業者が、詐欺容疑で逮捕された。彼らはまず、過去に訪問販売で布団などを購入したリストをもとに、電話をかけたり、訪問したりする。そして次のように尋ねる。

「以前に、こちらのお宅を訪問した会社から、お布団を買いましたよね」

家人が「ええ」と答えると、「実は、それはセット販売の契約になっていましてね」と嘘をつくのだ。契約書をしっかりと見ずに購入してしまったゆえに、高齢者は「そうだったかもしれない」と思い、ワルたちの話に耳を傾けてしまうことになる。

業者は、「契約書に書いてあるから、すぐに購入しなさい」と、ダイレクトには話を展開しない。相手を安心させるような言葉で、ひと手間を加えてお金を払わせようとする。

「私たちの商品を買えば、これから先の訪問販売をやめさせることができます」

これまで散々、悪質業者の勧誘に苦労してきている高齢者は、この言葉を聞いて商品購入の話など二の次になってしまう。まんまとこの言葉にはまってしまうと、「勧誘を止めたい」思いが優先してしまい、ものの値段など気にすることなく契約してしまう。

実際、この業者はこの手口で、被害者900人ほどから、11億5000万円を超える金額をだましとっていたという。1人平均127万円の被害額となる。

「これで勧誘がなくなります」は、高齢者の心に刺さった棘をとってくれる効き目のある言葉である。しかしながら、勧誘被害にさほど遭っていない人がこの言葉を聞いたとしても、さほど効果のある言葉とはならないであろう。同じ言葉でも、どういう相手に、どのようなタイミングで投げかけるかで受け止め方が違ってくる。