富山市の高齢者は、全国平均より1000歩も多く歩く。すこし歩けば、駅や広場があるからだ。人口42万人の町がはじめた新しい暮らし方とは――。

路面電車を核に「団子と串」へ投資

都市と地方の暮らしで、最も違う点は「歩くかどうか」だろう。国の調査によれば、65歳以上の高齢者の平均歩数は5368歩。傾向としては公共交通網が発達している東京などの都市は多く、反対に車社会である北海道などの地方は少ない。

これに対し、富山市が公共交通の割引サービス「おでかけ定期券」の利用者を対象に調べたところ、65歳以上の平均歩数は6360歩で、全国平均を1000歩近く上回った。富山市の森雅志市長は「定期券の利用者は1日約2600人。歩数増加には健康増進の効果が認められており、医療費に換算すれば年間7500万円程度の効果になる」と話す。

こうした取り組みに世界から注目が集まっている。今年9月にはニューヨークの国連本部で報告を行い、10月には富山市で経済協力開発機構(OECD)と共催の国際会議を開く。欧米やアジアの都市の首長らと、高齢化対策について話し合う。

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写真:中心市街地などを走るLRT。環状線は「セントラム」の愛称で呼ばれる。

なぜ富山市の高齢者は歩くのか。背景にあるのが、森市長が就任以来、10年にわたって続けてきた「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」だ。森市長は、その基本方針を「団子と串」と呼ぶ。「串」は公共交通、「団子」は交通網で結ばれた徒歩圏を指す。「団子」に対して手厚いサービスを行うことで、駅の近くに住む人を増やし、過度な自動車依存をあらため、中心市街地のにぎわいを取り戻す施策だ。

市内交通の中心は「LRT(次世代型路面電車)」が担う。市内を走るJR富山港線を2006年に第三セクターへ移管。さらに官庁街や中心部を走る路線を900メートル延伸して、「環状線」も新設した。最長60分だった運行間隔は、最短10分にまで改善し、終電は21時台から23時台に。車両は低床のバリアフリー車両に統一された。この結果、利用者はJR時代に比べて、平日で約2.1倍、休日で3.4倍となった。交通弱者である高齢者を中心に、市街地に出かける人が増えている。「団子」への投資も進めた。駅周辺の19カ所を「居住推進地区」として、マンション購入者には一戸50万円、マンション建設事業者には一戸100万円の補助金を用意した。05年に始まったこの制度によって、今年3月までに1417戸が中心部に住み始めた。