将来の介護をアテにするのは要注意
「連れ合いが亡くなったのを機に、子どもが残された親を心配して地方から呼び寄せ、ケア付き住宅を探す例は多い」と、高齢期の住み替え相談を行うNPO法人シニアライフ情報センターの池田敏史子事務局長は話す。
一人暮らしや健康面の不安を抱えるシニアにとって、ケア付き住宅への住み替えは解決策の一つだ。
食事の提供や緊急時対応などのサービスが受けられる介護付き有料老人ホームには、元気なシニアが入居できるところもある。万一倒れたときでも、スタッフが駆け付けてくれるため安心感は大きい。将来、介護が必要になっても住み続けられる。
また、近年急速に数が増えている「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)にも、食事や見守りが付いた物件がある。
高専賃とは、おおむね60歳以上のシニアを対象とした賃貸住宅。入居時に高額な一時金がいる有料老人ホームと比べ、敷金・礼金程度の初期費用で入居できる。家賃および共益費の中心価格帯は月5万~8万円程度(国土交通省調べ)と、割安感もある。一般住宅と同じように自由に暮らせるのも魅力の一つだ。
ただ、将来の介護をアテにして入居する場合は、注意が必要だ。介護付き有料老人ホームは職員によって介護が提供され、介護費用は認定ランク(要介護度)に応じて金額が決まっている。月額費用は、食費や管理費なども含め20万~25万円程度。
一方の高専賃は、自宅にいるのと同じように外部の訪問介護などの事業所と契約してサービスを利用する。介護費用は認定ランク別に決められた上限額の範囲内ならば、自己負担は1割。例えば、中度の「要介護2」ならば、最大で月2万円程度。
だが、重度化したり、認知症が進行したりすると、特別養護老人ホームなどの介護施設へ住み替えざるをえない例もある。たとえ住み続けられたとしても、介護保険だけでは対応しきれず、費用が高額になる。実際、月30万~40万円かかる例もある。管理人がいても、介護の経験があるとは限らない。
住環境もさまざまで、必ずしも高齢者が住みやすい物件ばかりではない。
緊急時などの対応方法を含め、心身の状態変化にどの程度まで対応できるのか確認したうえで入居を検討したい。
意外に難しいのが、これらケア付き住宅にいつ住み替えるかという判断だ。前出の池田氏によると、「住み替え年齢は70代から80代へと延びている」という。できるだけ自宅で過ごし、体力や判断力が衰えてから住み替えようと考えている人も多いだろう。
だが、住み替えには引っ越しという大作業が伴うので、「体力があるうちでないと厳しい」(池田氏)という現実もある。
かといって早めに住み替えればよいのかというと、最近はそれも万全とは言えなくなってきた。競争の激化や景気の悪化などで介護付き有料老人ホームの経営が厳しくなり、別の事業者にホームごと売りに出される例が増えている。「経営者が代わったら、介護の質が低下した」という例もあるくらいだ。将来の介護を「先物買い」するのは、慎重にならざるをえない状況となっている。
健康面への不安を解消したいなら、早めに緊急時対応の付いた高専賃に入居するのも選択肢になる。だが、介護が必要になったら、別の介護施設へ住み替える覚悟は持っておきたい。
※すべて雑誌掲載当時