目指すは時価総額1000億円

【田原】お弁当の配達ですね。運び手や商品はどうしたのですか。

【堀江】最初はフリーランスではなく、自分たちで配達員を雇いました。お弁当は飲食店がつくります。たとえば渋谷の飲食店はフロアが狭く、厨房は余裕があるのにお客さんが入れないところが少なくない。そうした店もデリバリーすれば回転率を高められますが、多くの店はデリバリー用に人を雇う余裕がない。そこで僕たちがデリバリー機能を代わりに提供するというモデルです。

【田原】デリバリーしてほしいという店はどれくらいあったのですか。

【堀江】アプリもウェブもない状態で営業に行って、最初は約15店から始めました。最後のほうは300店まで増えました。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】ユーザーのほうは?

【堀江】それが、伸びませんでした。海外では同じモデルがうまくいっています。でも日本では流行らなかった。なぜかというと、日本はコンビニが便利だから。海外は近所のスーパーに行くのも車で20~30分かかるので、追加で500円払ってもデリバリーを頼みます。一方、日本は歩いてすぐのところにコンビニがある。僕たちの競合はコンビニだったのに、それを見誤っていました。

【田原】それでどうしたのですか。

【堀江】サービスをいったん、閉じました。

【田原】そして、いまやっている料理レシピ動画サービスに切り替えた。レシピサービスといえばクックパッドが有名です。

【堀江】孫さんのようにインフラの事業に投資するには、現金が1000億円くらいある会社にならないといけません。その規模に短期で成長するには、一つの事業に集中する必要があります。たとえばメルカリがそう。M&Aを繰り返して本業が何かわからなくなっているベンチャーがようやく時価総額1000億円に到達しようかというなかで、メルカリは一つの事業で一気に大台を超えました。ほかにそういうマーケットはないかと思って、時価総額1000億円以上の企業をリストアップ。そのなかから、いま大きなトレンドがきていて、僕らでもひっくり返せる可能性のあるものを探したら、クックパッドのやっているレシピサービスだったということです。