いまシリコンバレーでアツいのはAIです。その中でも今後大きくなるといわれているのはソーシャルロボットです。高齢化は、日本のみならず世界共通の課題。お年寄りの方々が話して寂しさを紛らわせることができるパーソナルロボットは、今後ニーズが高まります。

日本ではソフトバンクのペッパーの知名度が高いようです。しかし、いまのところBtoBの域を出ていません。一方、アメリカではすでに500ドル前後で、「Jibo」というコンシューマー向けのパーソナルロボットが登場しています。

Jiboは、“話すiPhone”です。たとえば「熱があるから病院に連絡して」と話しかければ音声を認識して電話してくれるし、代わりにメールしたり、スカイプにもつなげてくれます。音声認識自体は、アップルのSiriもできます。ただ、Siriは複数の人が話していると話者を特定できません。それに対してJiboは人認識の機能を搭載していて、顔を覚えて、話者を区別できるところに強みがあります。ほかにも言語学習のソフトを載せれば、毎日Jiboと英会話の練習ができる。想像しただけで、楽しいでしょう?

私はこれまで約200社のロボットを見てきましたが、Jiboはその中でもナンバーワン。われわれのほかに、韓国のサムスンやLG、台湾のエイサー、中国のNetPosa、日本からはKDDIと電通が出資しています。

AIでは、人のフィーリングがわかる技術を持っているAffectivaに注目です。これまでパソコンのWeb閲覧履歴を見れば、その人の年齢や性別、嗜好を分析できました。それによってパーソナライズされた広告も、すでに普及しています。しかし、これまでは人の属性がわかっても感情まではわからず、お酒が好きな人だけど2日酔いの状態のときにビールの広告を流すといったミスマッチが起こっていました。

Affectivaは顔の表情を解析して、人のフィーリングを把握する技術を持っています。この技術を活用すると、映画の試写をしたときにどこのシーンで盛り上がるかを把握し、そのシーンをつないで作品をつくることもできます。病院での診察時の反応を正確に把握するなど、医療現場での活用も期待されています。

JIBO――家庭用アシスタントロボット「Jibo」を開発。顔認識機能によって家族区別ができる。また、自己学習することで、人間からではなくJibo側から話しかけることができるのが特徴。今秋、一般向けに発売予定。
Affectiva――人間の感情を認識するソフトを開発。深層学習を使って相手の感情を正確に識別することができる。ハリウッド映画では、観客が興奮する箇所を分析し、その場面を組み合わせるなどの取り組みも進む

AIでは、ビジネスアシスタントも有望でしょう。x.aiという会社が提供している「Amy 」は、メールの情報を自動でスケジュールに落とし込んでくれます。秘書の予定管理業務に影響が出ることが予想されています。

シリコンバレーでの日本企業成功の鍵

海外の最先端技術に触れる方法は、もちろん提携や買収だけではありません。最近、トヨタやKDDI、損保ジャパン日本興亜ホールディングスがシリコンバレーに研究所をつくりました。これも海外の技術を吸収する効果的な手段です。研究所をつくるときは、人材は駐在員だけでなく、積極的に現地採用すべきです。シリコンバレーの技術を吸収するには人の交流が必要で、それには現地の人材が力を発揮します。実際、サムスンはそうして技術を韓国に持ち帰りました。

日本にも海外にも、イノベーションにつながる技術はすでに存在しています。大切なのは、それらを知り、活かすことです。

優れた技術を持つ日本のスタートアップが、海外の投資家を迎え入れて海外展開の足がかりにする。一方、日本の既存の企業は、海外のスタートアップと提携して自らも技術を磨く。こうしたエコシステムができれば、日本はもう一度、アジアをリードできるのではないでしょうか。

フェノックス・ベンチャーキャピタル代表 アニス・ウッザマン
1975年生まれ。東京工業大学卒業後、オクラホマ州立大学にて修士、東京都立大学にて博士号を取得。米国IBMなどを経て、フェノックス・ベンチャーキャピタルを設立。シリコンバレーを拠点に世界各国へ進出。日本のスタートアップに対し、2015年は約24億円を投資。2020年までに約200億円の投資を予定している。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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