2014年の薬事法改正で、日本の再生医薬の治験から承認までのスピードは世界一になった。その恩恵を受けるべく、海外の大手企業からベンチャーまでもが日本に進出しているという。

その流れに乗って、再生細胞薬で脳梗塞や認知症の治療を目指しているのが、「サンバイオ」(http://www.sanbio.jp/)の森敬太社長だ。1967年札幌生まれ、ドイツ育ち。東京大学農学部で遺伝子や、タンパク、微生物や土壌などを研究していた。キリンビールに入社するが、MBAを取得して退社。同窓生の川西徹氏と2人で、アメリカでサンバイオを創業した。なぜ再生治療に着目したのか? 森氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

東大農学部でバイオを研究

【田原】森さんは東大農学部の農芸化学科を出られた。農芸化学科はどんなことをやるところですか。

【森】バイオです。私の前の世代は農学部というと農業の研究になりますが、私たちのころはバイオが脚光を集めていて、農学部も遺伝子工学ができるということで人気がありました。

【田原】遺伝子ですか。そういうのは医学部でやるのかと思っていました。

【森】もちろん医学部でもやっています。ただ、農学部とは方向性が違います。医学部の人に怒られてしまうかもしれませんが、医学部の遺伝子研究は患者ありきで、やはり医療なんです。それに対して農学部はサイエンス。遺伝子に絡む発見や発明に興味があるなら、農学部や理学部のほうが向いていると思います。

【田原】卒業後はキリンビールにお入りになる。ビール会社を選んだのは意外な気がしますね。

【森】当時、キリンビールは多角化経営を進めていて、ビールだけでなく、乳製品などの食品事業やレストラン事業を展開したり、さらに医薬の分野にも進出していました。一方、私は何か新しいことを始めて社会にインパクトを与えたいという思いがあった。キリンビールなら自分も何か一つ大きな事業ができるのではないかと考えて選びました。

【田原】その後、アメリカに留学されますね。これはどうして?

【森】キリンビールで新しい事業をやりたかったのですが、そのための知識がありませんでした。それで会社にMBAに行かせてほしいとお願いしてカリフォルニア大学バークレー校に留学しました。バークレーでは、アントレプレナーシップについて学びました。たとえば新しい事業のビジネスプランを書いたり、実際にベンチャー企業に入ってプロジェクトを経験したり。充実した2年間でした。