慶應義塾大学教授 坪田一男氏●慶應義塾大学医学部眼科教授。南青山アイクリニック手術顧問。1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒。著書に『老眼革命』『視力再生の科学』他。

目の病気には様々なものがあるが、その多くが加齢にともなって起きる。目の病気を成人の失明の原因順にあげると、第1が緑内障、第2が糖尿病性網膜症、第3が網膜色素変成、第4が黄斑変性症である。いずれもが年を重ねることで進行・悪化する病気である。

緑内障や糖尿病性網膜症、黄斑変性症などの初期は自覚症状がないことが多く、眼科で検診を受けないと気づかないうちに進行してしまう。緑内障は視神経の異常(視神経細胞の死)によって視野が欠けてくる病気だ。死んでしまった視神経をもとに戻す治療法はまだないが、早期発見できれば、進行を防ぐ治療で視力を保つ。網膜の障害は、視力に最も重要な網膜の中心分に変性や異常が起きると視力に大きく影響する。40歳を超えて目の検診を受けていないのならば、すぐにでも視力、眼圧、視野、眼底の検査をすべきだ。

成人の失明の原因第2位の「糖尿病性網膜症」は、糖尿病が原因で網膜に障害が起きる。網膜には細かい血管が全体に張りめぐらされている。血糖値が高い状態が続くと血管がぼろぼろになっていく。血流が悪くなり、血管が破れるなど、その部分の組織が酸素や栄養不足に陥って死んでしまうのだ。糖尿病は全身の血管を老化させる病気。目はその影響を最も受けやすい部分である。だから糖尿病対策は、実は目のケアでもある。白飯や白いパンよりは、血糖値の上がりにくい玄米やライ麦パンなどの「低GI食材」を選ぶとよい。主菜、副菜をたっぷり食べて、ご飯類は軽くが、ベストだ。

こうした失明とは関係ないが、40歳以降に発症しQOL(生活の質)に影響を与える目の病気はたくさんある。一つは老眼だ。早い人では30代後半から近くが見えにくくなる「老眼」症状が表れてくる。これは加齢によって目の中でレンズの役割をする「水晶体」が硬くなり、ピント調節する機能が低下することによる。これまでは眼鏡が老眼の唯一の矯正法であったが、この4~5年で遠近両用のコンタクトレンズの普及や、手術により遠近の視力を回復する方法が登場し、老眼治療の時代が到来している。