漆器、陶磁器、藍染……生活様式の西洋化や、安価な輸入品の増加によって、和の伝統産業は全国で苦戦している。しかし、その素晴らしさをベビー用品という形で小さな子供たちに伝え、守ろうとする28歳の女性起業家がいる。
「和える」(https://a-eru.co.jp/)代表の矢島里佳さんは、1988年東京生まれ、千葉県育ち。茶道や華道を通して日本の伝統に憧れを持つようになる。高校3年生のときTVチャンピオンで「なでしこ王」になった矢島さんは、AO入試で慶應義塾大学法学部政治学科に入学。大学生ライターとして伝統産業を取り上げる連載を書く中で各地の職人に出会う。起業して2012年にaeru(和える)ブランドを立ち上げ、伝統産業の職人と商品を作り販売開始。2016年にはホテルの一室を地域の伝統や文化を感じられる空間にプロデュースする「aeru room」事業を始めた。
伝統産業を守るために、なぜベビー用品に着目したのか? 矢島氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。
大学時代はニュースキャスター志望
【田原】矢島さんはもともとニュースキャスターか新聞記者志望で、慶應義塾大学の政治学科にお入りになった。それなのに、なぜ伝統産業の道に進もうとしたのですか。
【矢島】大学1~2年生のころ、将来、ジャーナリストとして何を追いかけていこうかと考え始めました。そのとき自分の人生を振り返ると、私は日本に憧れる日本人だと気づきました。それがきっかけですね。
【田原】日本に憧れる日本人?
【矢島】私は東京生まれで、千葉のベッドタウン育ち。新しくつくられた街で暮らして、田舎におじいちゃん、おばあちゃんの家があるわけでもありませんでした。だから日本の伝統に憧れがあったのです。それに中学や高校で茶華道部に入っていたことも大きかった。茶道や華道を通して、日本の伝統や文化はすごいなと。
【田原】伝統文化好きが高じて、テレビ東京「TVチャンピオン2」の「なでしこ礼儀作法王選手権」に挑戦したそうですね。
【矢島】大学入学前ですね。慶應にはAO入試で入学しました。AO入試は10月に合格が決まります。友人たちがまだ受験をしている中、私は半年の時間がありました。合格決定が早いのは、この半年を使って何かに挑戦しなさいという意味だ、勝手にそう解釈して入学前に挑戦できそうなことを探していたら、妹がたまたま「TVチャンピオン」の話を教えてくれたのです。おもろしそうだと思って出場したら、優勝してしまって。
【田原】クイズ番組ですよね。どんな問題が出たのですか。
【矢島】最後の質問は「一富士、二鷹、三茄子。四は?」でした。正解は「扇」。「四扇。五煙草、六座頭」と続くので。
【田原】すごい。僕は聞いたこともない。どうして矢島さんは答えられたの?
【矢島】茶道の先生から、礼儀作法や伝統文化の話をうかがっていました。それがおもしろくて、自分でも本をいろいろ読んでいたら、たまたま知っている問題が出た。だから偶然の優勝なんです。
【田原】優勝してどうでした?
【矢島】私は日本のことを好きだったのだと、改めて気づかされました。それまでも好きでしたが、あまり自覚がなかったので。