極悪の被告人に従う弁護人「それが仕事ですから」

裁判における刑事弁護人は、被告人の権利と利益を守るため、被告人にとって有利な事情を主張・立証する。

客観的に見て「被告人以外に犯人はいない」と思えるような事件で、刑事弁護人が被告人と会って事情を聴くときに「勝ち目はない」「認めるほうがいい」と説得することはあるとしても、いざ裁判となれば、被告人の希望に沿った弁護を行うのだ。

その立場は徹底して代理人であり、弁護人自身の見解が求められることはない。

以前、ある弁護士に、どう考えても有罪だと思える被告人を「無罪である」と弁護するのは虚しくないかと質問したら「それが仕事ですから」と即座に返されたことがある。

弁護人は被告人を、こう説得するかもしれない。悪あがきするより潔く罪を認めるほうが情状酌量されやすく、有罪になった場合の量刑も軽くなる、と。しかし、被告人がどうしても無罪を主張すると言い張れば、弁護人はそれに従うのが職務だ。そして、無罪にはならないとしても、どうすれば少しでも量刑が軽くなるかと頭を切り替え、与えられた役割を果たすのである。

検察が揃えた、有罪を示す証拠の数々を前に、負けると知りながらも弁護人は言う。

「被告人が被害者と会い、もみ合った末、被害者が命を落としたことは事実ですが、被告人は不意に殴りかかられ、そばにあった刃物を反射的に手にして防ごうとしただけです。殺意などあるわけがなく、正当防衛を主張します。被告人は無罪です」

この例はまだいいほうで、よくある窃盗事件などでは無理がありすぎるやりとりも繰り広げられる。しらじらしさ満点の被告人質問を再現してみよう。