腕利き弁護士は「7掛け」の量刑を目指す

▼とある窃盗事件の被告人質問

弁護人(以下、弁)「バッグの中に衣料品その他18点が入っていたことは認めるが、故意にやったのではなく、レジで精算するつもりでいたんですね」
被告人(以下、被)「その通りです」
「店の外に出たところで警備員から声をかけられましたが、精算するのを忘れていただけで支払う意思はあった?」
「はい。お金は持っていましたから。警備員にもそう言いましたが信じてもらえず、警察に突き出されました」

普通、信じないって。

「衣料品のタグがポケットに入っていたのはなぜですか」
「無意識に外したとしか……」
「タグを捨てようと思えばトイレに行くこともできたのに、そのまま店を出たのですね」

おいおい、どう考えても確信犯だろ!

傍聴経験がまだ浅かった頃には違和感のあった弁護人の言い分も、それが代理人として当然の仕事だと理解できてからは平常心で聴くことができるようになった。

技術が問われるのは、被告人が罪を認めている場合だ。

いかにして情状酌量の余地を増やし、執行猶予付き判決に持ち込むか。実刑なら、年数を減らすか。量刑にはなんとなくの相場があって、検察の求刑が懲役10年なら判決は7年、5年なら3~4年というように、求刑の7掛けくらいの判決に落ち着くことが多い。

執行猶予を取れれば文句なし、実刑判決でも、10年が5年になるなど、相場を下回ったときは依頼者(被告人)に実質的な利益をもたらしたことになる。

求刑から大幅減の判決を受けた被告人が、法廷を出ていくとき、弁護人に深々と頭を下げたり、執行猶予付き判決で済んだ被告人が、閉廷後、涙ながらに礼を言ったりするのは珍しい光景ではない。弁護人は笑顔で受け止めつつ、あくまでクールに「良かったですね」「しっかり更生してください」で終わらせ、いつまでもベタベタしない。

腕のいい弁護人に出会うたび、プロだなと思う。

土俵際に追い込まれた人の味方になり、減刑という結果を出す。これはやりがいのある仕事だろう。だが、冷静に考えてみれば、弁護人は職務を果たしただけ。特別な能力を発揮したわけではない。それでも大いに感謝されるのは窮地を救ったからである。

医者もそうだ。やるべきことをやり、素早い処置を施したり手術が成功したりすると、患者に大感謝される。消防士だってレスキュー隊だって同じ。ピンチを救えば、助けられた人はありがたく思うのだ。