痴漢裁判 検察の「端的な質問」の狙い

裁判では被告人や証人が勝手に発言するのではなく、検察や弁護人(ときには裁判官も)の質問に答える形で審理が進む。

被告人は訊かれていないことについて喋る必要はなく、答えたくなければ黙っていてもいい(黙秘権)代わり、話した内容は証拠として記録される。被告人が何を喋るかは質問次第なのだ。

また、被告人は訊かれたことにのみ端的に答える決まりになっていて、説明を求められなければ「はい」「いいえ」が基本。この条件下、検察と弁護人が火花を散らす。たとえば犯行を否認する痴漢事件の被告人質問はこんなふうだ。

検察(以下、検)「電車に乗ったあなたは仕事の行き詰まりからストレスの塊だった。そうですね」
被告人(以下、被)「塊というか、かなり参っていたのは事実ですが……」
「はいかいいえで答えてくださいね」
「えー、はい」
「そのストレスを目の前にいた被害者にぶつけ、電車の揺れに乗じて胸を触った」
「考え事をしていて揺れに対応できずとっさに手を上げたらそこに胸が」
「偶然だったと。では質問を変えましょう。あなた、その直後に同じ右手でお尻にも触ってますよね!」
「揺れがひどくて」
「触ったかどうか尋ねているんです」
「やっぱりぶつかった、かなあ」
「なぜ胸に当たった手が直後にお尻にぶつかるんですか! 意識的に動かさない限り不自然すぎるでしょう」
「ですからそれは(しどろもどろ)」
「もうけっこうです。終わります」

ここでビジネスマン諸氏に覚えてほしいのは、ただひとつつ。

検察の狙いはお尻だということだ。胸に当たったのは偶然で構わない。欲しいのは胸からお尻までの距離である。つまり胸に手があったことを認めさせれば、被告人の不自然な行動が浮き彫りになり、被告人が罪を認めなくても、裁判官に「やってるね」という印象をあたえられる計算が成り立つのだ。

裁判での検察官の使命は有罪の立証。このゴールに向かって、いかに被告人を追い詰めるかが勝負となる。そのために、端的に答えるルールをうまく使った質問術を駆使するのだが、これ、ビジネスシーンでも使えるテクニックではないだろうか。