想定通りの答えを引き出す「絶妙なパス」
たとえば、部下が準備不足のため焦り、半徹夜状態でプレゼンテーションに出かけて玉砕したとしよう。原因としてすぐ思い浮かぶのは寝不足、あるいは半徹夜せざるを得ない状態に追い込まれた甘い見通しや計画性のなさである。
でも、それを言葉にしても何のインパクトもない。
上司(あなた)「端的に答えなさい。あなたはその準備のペースで間に合うと思っていたのか」
部下「いませんでした」
上司「きちんと間に合わせるための段取り表などは作りましたか」
部下「作りませんでした」
上司「そんなことだから前夜になって慌てるんです。つぎからは計画を立て、いまどのくらいの仕上がりかを把握して進めるように」
部下「すみませんでした」
まるで小学校の教師と生徒の会話だ。しかも、あなたがこれを言ってしまったら、やりとりを見守っている上役にはおいしいところが残らない。
間違ってはいない。答えは“つぎは準備を怠るな”に決まっている。でもそれは上役が話を〆るために残しておかなければならない言葉。あなたがすべきことは、上役がすんなりそれを口にするための“絶妙のパス”を出すことなのである。
お尻のために胸があったように、準備を怠るな、のためには何があるか。例えば、こんな「パス」はどうだろうか。
上司(あなた)「準備不足でもプレゼン会議に出た度胸は買います。なかなかできることじゃない」
部下「いえ、そんな……」
上役「つぎからは準備を怠らないようにしなさい」
上司であるあなたは、部下に「いえ、そんな」としか答えられないようなセリフで追い込み、上役が気持ちよく〆の言葉を言える環境を整えるのだ。
いくらでもパターンが考えられそうだし、失敗例を変えてみたり、部下を変えてみたりすることで、的確な言葉を選ぶトレーニングになりそうだ。通勤途中の息抜きに向いているかもしれない。
備えあれば憂いなし。機会はいつ訪れるかわからない。とっさの判断力を磨くためにも、日頃からパスコースの研究に勤しみ、他部署で同様のことが起きたら聞き耳を立てておこう。