部下も上司の力量を冷静に判定している

ビジネスでも売上を上げるのが簡単な時代と、大変難しい時代があります。10年前は好景気だった業界が、今は閑古鳥が鳴いていることも少なくありません。会社の状態が好ましいとき、社会が全体として豊かな時は部下も黙って上司についていきます。誰について行っても、結果はそれほど大きく変わらないからです。

『実践版 三国志』(鈴木博毅著・プレジデント社)

ところが乱世は違います。浮かぶ組織と沈む組織ではっきり明暗がわかれてしまう時代には、部下も誰についていくか、口にこそしませんがじっと上司の能力や人望を判定しているのです。能力が低い上司についていけば、自分もそのとばっちりを食う可能性があるのですから。部下も真剣に値踏みし、仕事ができない上司の足元を見てくるわけです。

200年、後漢崩壊のときに最大軍閥と言われた袁紹軍と、曹操の軍が激突する官渡の戦いが行われます。勝った者が、中国の中北部の覇者となる(日本の)関ヶ原の合戦のような重要な瞬間でした。

若い頃から王佐の才(王者を輔佐する能力)があると言われた天才参謀の荀イクは、一度は袁紹陣営に身を寄せながら、袁紹の能力に見切りをつけた曹操に仕えました。その彼が、決戦のときに2人のトップを、次のように比較して見せました。

【袁紹(えんしょう)】
●袁紹は鷹揚に構えているが猜疑心が強く部下の心を疑う
●袁紹は優柔不断で謀略を用いる機会を逃す
●袁紹は軍令をいきわたらせず兵力を使いこなせない
●袁紹は名門を鼻にかけて教養をひけらかして評判ばかり気にする

【曹操】
○曹公は適材適所である
○曹公は決断力に富む
○曹公は信賞必罰なので兵士が死ぬ気で戦う
○曹公は質素に振る舞い功績を挙げたものに賞を惜しまない