生き抜くための叡知が溢れている

『三国志』と聞いて、まったく知らない方は少ないでしょう。

始皇帝が立ち上げた秦帝国は、秦王政が死去してからわずか15年で崩壊。群雄が台頭するなかで項羽と劉邦が争い、最後に勝った劉邦が漢帝国を建設(前202年)します。三国志の時代が始まるのは、前漢のあとを継いだ後漢帝国が崩壊する220年前後からです。劉邦の漢帝国は前後合わせて約400年続いた長期政権でした。歴史と伝統を持つ帝国が、汚職や権力の腐敗により滅びるとき、新しい才能が世に出て新時代を創ります。

古い権威が崩壊して、時代が大きな転換期を迎えるとき、たいていの場合、崩壊していく巨大組織は、閉塞感のなかで仲間割れや、足の引っ張り合いばかりが起きます。そのような組織では、古い慣習から権力を握る者が固定されており、時代から大きくズレていきながらも、権力をこれまで持っていた層は、決して手離さないからです。

『実践版 三国志』(鈴木博毅著・プレジデント社)

現代日本でも、歴史と伝統を持つ巨大企業が強い閉塞感の中におちいっています。最近では名門企業のシャープがこの春に台湾の鴻海精密工業に買収されました。同じく名門企業の東芝、三菱自動車は不祥事の発覚とその対応に苦慮しています。

巨大組織が時代の転換点でつまづくとき、大量のリストラと事業継続の危機まで訪れる。これは働いている私たちビジネスパーソンにも、人生の大きな谷と悲劇もたらします。安易な多数派、寄らば大樹の陰としたこれまでの生き方が、否定され始めているのです。

時代の転換点では、社会で多数派が貧しくなっていくのも1つの特徴です。閉塞感のある巨大組織は、優れた若手や実力派を要職に押し上げるのではなく、限られたパイを若い奴らに渡してなるものかと、できる人、出る杭となる人の足を引っ張ることしか考えない古参の権力者が増えていくからです。