「離れる力」を発揮した者が勝利者になる

曹操が天下人となるきっかけを作った荀イクは、「王佐の才」を持つと言われた賢者でした。王佐の才とは、帝王を輔佐する器という意味です。彼は最初、最大軍閥のトップだった袁紹に仕えますが、すぐに見切りをつけて曹操陣営に一族とともに走っています。袁紹という見栄えは良いが中身は優柔不断のトップの下では、自分の才能が花開かず、大きな成功を手にすることは不可能だと悟ったからです。

曹操に天下を獲らせたもう1人の知恵者、程イクも、自らの身の置き所をじっくりと観察して選んでいました。地方軍閥のトップだった劉岱からの士官の誘いを程イクは断り、曹操の時は迷うことなく彼に仕えることになります。同郷の人たちは、劉岱からの誘いは何度も断り、なぜ曹操の誘いには迷わず仕官をしたのか聞きましたが、彼は笑って答えなかったといいます。

逆に混乱期のリーダーは、腐り始めた巨大組織からはみ出すような才能、突出した能力を持ちながら、古い権威の殻にある組織に所属したくない者を吸収して自軍に組み入れて戦力とすべきです。そのため、混乱期ほど才能をある者を引き寄せる集団であることを、理想を持つ小さな企業は自己演出することが効果を発揮します。

検索エンジンの世界的企業、グーグルは人材の中のトップのさらに最上位だけを採用することに全力を挙げており、シリコンバレーは起業のメッカとして古い大企業に飽き足らない才能と技術者を魅了し続けています。

古い権威の崩壊、中央集権的な組織の腐敗の時代は、規模が小さいながらも市場の新機会を求めて戦う意欲に溢れるベンチャー企業にとっては、飛び切り優秀な人材を手に入れるチャンスであるとも言えるでしょう。

能力のある者、野心のある者ほど、沈みかけた船から離れる機会を早く伺うものです。今、ビジネス界や社会、政治などがある種の転換期にあるのなら、新たな機会に飛び乗るために「離れる力」を巧みに発揮した者から、次の勝利者・成功者になっていくのです。