部下がやらざるをえない環境を作る
意外なことかもしれませんが、兵法書の『孫子』は戦略戦術だけでなく、組織論にページを大きく割いています。組織をどうまとめるべきか、兵士の実力を200%引き出すためには、リーダーは何をすべきかを書いているのです。第十一「九地編」で孫子は、どんな軍隊の兵士でも、戦闘が怖いのは当たり前であると指摘しています。
「彼らとて実は、財産は欲しいし、声明は惜しいのだ、出陣の命令が下ったときは、死を覚悟して、涙が頬をつたわり、襟をぬらしたはずである」
「そのかれらが、いざ戦いとなったとき、専諸や曹けい顔負けの働きをするのは、絶体絶命の窮地に立たされるからにほかならない」
(引用『孫子・呉子』守屋洋・守屋淳 プレジデント社より)
現代ビジネスでは、戦場に出陣して死と隣り合わせ、という体験をすることはありませんが、別の意味で孫子の指摘は当たっています。ほとんどのビジネスマンは、自分の本来の能力を100%発揮して必死になることはなく、仕事に熱中するよりむしろ手を抜く方法を考えることが多いからです。
勿論、会社が期待する成果を出していれば問題はありません。しかし孫子は、平凡な兵士も英雄のような獅子奮迅の活躍をする条件を整えることを目指すべきだと言っています。
逆に言えば、あまり真剣に仕事に打ち込んでいない部下の姿にイライラしているのは、実は会社や上司が職場環境を正しく整えていないことが理由かもしれないのです。
孫子は「窮地に立たせる」と書いていますが、社員を追い込むのではありません。社員がやらざるを得ない状況に置き、仕事に真剣に向き合える場を創ることがポイントです。