職場のチームを勢いに乗せるリーダーたれ

また孫子は、職場のチームを勢いに乗せるリーダーになることを勧めています。勢いのある職場に入れば、大抵の人はその場の活気に流されて元気になり、自ら積極的に動き出すことになるのです。個人の奮起に期待するより、チーム自体を勢いのあるものにするリーダーの指導こそが大切なのです。

「戦上手は、なによりまず勢いに乗ることを重視し、一人ひとりの働きに過度の期待をかけない(中略)。勢いに乗れば、兵士は、坂道を転がる丸太や石のように、思いがけない力を発揮する」

 よく言われることですが、動くことで成果が出る仕組みを作り上げることができれば、新人社員でも仕事が面白くなるものです。最初は仕組みで成果が出るのだとしても、自らの行動に対して自信を深めていくプラスの経験ができるからです。

そのためリーダーは「勝てる戦場」に部下を連れていく必要があります。この連載を通じて、孫子がいかに戦場を慎重に選んでいるかを解説してきましたが、戦うべき戦場を巧みに選び、兵士が戦果を挙げることに自信を深めるようにできるリーダーは、自軍に勢いを生み出し、それに部下を巻き込んで勝利を重ねることができるのです。

さらに孫子は組織を効果的に率いる3つの要素を提示しています。

(1)乱を治に変える「統率力」
(2)怯を勇に変える「勢い」
(3)弱を強に変える「態勢」

この3つはある種、舞台装置のようなものでその上に乗ることで、平凡な兵士も勇者のように戦う者に成長していくことになるのです。上司が部下を「あいつは使えない」と判断するとき、実は上司である自分自身が正しく職場の環境を整備していないことが原因かもしれないのです。

「統率力」とは、万一の場合や問題が発生した時の対処法を予め決定し、組織内に行動様式として浸透させておくことです。これにより「どうしていいかわからない!」という混乱を事前に避け、問題を粛々と解決することが可能になるのです。

「勢い」とは小さな成功を体験させることで自信を生み出し、自分にはできる、次も乗り越えることができるという信念を育んでいくことです。小さな成功と勝利を、ステップを踏んで体験させていくのです。

「態勢」とは、経験を積むことで成長を促す仕事を任せることです。会社側、上司が勝てる戦場を選び出し、進むべき場所を明示しておく。勝てる体制を作り上げておくことが、弱兵を強兵に変えていくきっかけとなるのです。