※本稿は、安藤健『ロボットビジネス ユーザーからメーカーまで楽しめるロボットの教養』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
遠隔操作がもたらす価値
遠く離れた世界的な専門医の手術が近所の病院で受けられる。そんなSFのようなシーンが実現するかもしれません。
このような取り組みは意外と古く、2001年にはアメリカのニューヨークとフランスのストラスブールをつないだリンドバーグ手術という有名な手術がおこなわれ、ストラスブールにいる患者の胆嚢摘出術に成功したのです。
国内でも日本と海外をつないだ手術や日本の国内の拠点をつないだ遠隔手術も昔からおこなわれており、最近でも2021年には弘前大学医学部附属病院から150キロメートル離れたむつ総合病院の手術支援ロボットを遠隔操作しています。
このような取り組みは、特に地方で外科医が不足している現状において、地域格差を是正する大きな意義があります。遠隔操作技術は医療や他の産業において劇的な進化を遂げており、その影響は私たちの生活のあらゆる側面に及んでいくことになります。
遠隔操作技術が注目される理由は多岐にわたりますが、便利さを提供するだけではありません。
まず、遠隔操作により、物理的な距離を無視して知識や技術を活用できます。これにより、作業するほうもされるほうも場所によらず世界中のどこからでも、いつでもタスクを実行できるようになります。逆に、時差などを利用することで24時間サービスの提供を容易にすることもできます。
また、危険な環境での作業をロボットに任せることで、人間は安全な場所から操作が可能です。たとえば、災害現場や放射線管理区域での作業がこれに該当します。
遠隔操作の最大の強みは「人間の脳を使えること」
そして、遠隔操作の最大の強みは「人間の脳を使える」という点にあります。ロボットはまだ完全無欠ではなく、変動する環境や予測不能な状況での判断に迷うことがあります。
しかし、人間がリアルタイムで状況を把握し、理解し、適切な判断を下してロボットを操作することにより、これらの問題は解決されます。そうしたときに、人間の指示によってロボットが適切に動くことは大きなメリットです。
このような人間とロボットの協働は、多くの分野で新たな価値を生み出しています。
たとえば、冒頭の手術ロボットはその一例です。手術という複雑でケースバイケースの判断が必要な状況では、人間の判断が有効です。
遠隔操作である手術支援ロボットを使用することで、状況の判断やロボットの操作などは人間がしながらも、ロボット制御により人間の手の震えを排除した精密な動作が可能になり、より安全かつ効果的な治療を実現しています。