課題は多いものの、株高が続き活気を取り戻しつつある日本経済、そして主役である日本企業。そこへ熱いエールを送り続けるのがボストン コンサルティング グループ(BCG)日本法人やドリームインキュベータを率いた“伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。今、ホルムズ海峡危機を受けて、日本経済の過剰ともいえる「石油依存」や石油輸入における「中東依存」、さらには安全保障面での「米国依存」について、見直すべきではないかという議論が起きています。歴史的経緯や背景事情に詳しい堀さんの見解は?
石油が調達できなければ日本経済は崩壊する!
「石油依存」「中東依存」「米国依存」。たしかに日本は、エネルギー源を石油に頼り、しかもほとんどが輸入で、輸入先は中東に偏っています。そして日米安保体制により、外交面・安全保障面で米国と歩調を合わせる以外の選択肢はないのが実情です。
どれも見直せるものなら見直したい関係です。しかし実際問題として、見直すことはできるのでしょうか?
石油は自動車や船舶、航空機の燃料として不可欠で、火力発電の燃料でもあります。もっとも発電燃料としては近年使用割合が低下し、日本の電源構成のうち、石油は7~8%にとどまっています。同じ火力発電でも天然ガスや石炭の比率が高まっているのです。
石油のもうひとつの顔は、石油化学製品の基礎原料であることです。今年(2026年)2月末、米国はイスラエルとともにイランを強襲爆撃し、イランの最高指導者ハメネイ師を殺害、イランは報復として中東の石油輸出の要衝であるホルムズ海峡を封鎖しました。
この結果、日本を含む東アジア全域で、中東からの輸入に頼っていた石油や石油起源の化成品が不足し、大きな問題となりました。日本でもさまざまな化学製品の原料となるナフサが不足し、お菓子の包装に使われるカラーインクの材料がなくなって、包装の印刷がモノクロになったりしました。ナフサは日本国内の石油精製施設でも生産されますが、7割方は中東からの輸入に頼っていたのです。
飲み物の容器のペットボトルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)というレジン(樹脂)でできていますが、その材料ももとをたどればナフサで、ナフサの原料が石油という関係です。石油不足が深刻になったら、ペットボトルも作れなくなります。もっともペットボトルだけならガラスびんや竹の筒でも代用できますが、家電も自動車も衣料も携帯電話も、石油を原料とするレジンや塗料、潤滑油なしでは作れないのですから、石油が調達できなくなったら、日本の製造業は壊滅してしまうでしょう。
ガソリンや船舶、航空機の燃料も、EV(電気自動車)やエタノール燃料で一部は代替できても、全部はとても無理。第2次世界大戦中、石油の供給が滞ったため、「木炭バス」が使われました。これは車体の後ろにおかまをつけて、そこで木炭を不完全燃焼させて可燃ガスを発生させ、そのガスをエンジンで燃やして走るという仕組みで、日本だけでなく、ドイツやイギリスでも一時期使われていたそうです。しかしまあ、木炭バスでは今の交通需要を満たすことはできないでしょうね。
石油など化石燃料を代替するエネルギーとしては、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー、あとは原子力発電ということになりますが、平地が少ない日本では太陽光発電も限界があるし、風力発電の適地も限られています。水力発電も地熱発電も、開発できるところはあらかた開発済みです。原子力発電については、日本は世界でも特に原子力アレルギーが強い国です。原爆を落とされている上に東日本大震災で事故を起こしていますから、これは仕方ないことでしょう。
実は100年前から続いている日本の「石油依存」
日本にとって石油依存からの脱却は、100年来の願望です。
石油は19世紀後半の米国で本格的な産出が始まり、20世紀になるとモーターリゼーションや航空機の発達で、燃料として不可欠なものとなりました。
しかし日本ではその石油がほとんど採れません。国内でも新潟県などではわずかに石油が採れ、日本書紀に「越の国から燃える水が献上された」という話があるそうですが、国産石油の生産量は現状で国内使用量の0.3%にすぎず、ほぼ全量を輸入せざるを得ないのです。
太平洋戦争の直接的な原因も、米国が日本に対して石油輸出を禁止したことにあります。
日本が満州国建国を後押しし、中国東北部における利権を独占しようとしたことが米国の怒りを買い、石油禁輸につながったわけですが、これは日本国、なかでも軍部にとっては、真綿で首を締められるに等しい処置でした。というのも当時の日本では、石油の8割を米国から輸入していたからです。今の中東依存と同じように、当時は米国依存の構造だったのです。
日本は兵器の開発技術を磨いて、戦艦大和や零戦を造り出しましたが、どんな兵器を造っても石油がなければ動かすことができません。「これでは戦争ができない」ということになり、当時、オランダ領インドネシアで石油の生産が行われていたので、「米国がだめならインドネシアだ」ということで、石油を手に入れようと真珠湾攻撃の直後に攻撃をしかけました。オランダもまた米国の日本への石油禁輸に同調していたのです。
このとき日本は、戦艦から大砲を打ち込んだりすると肝心の石油生産施設が破壊されてしまうということで、「空の神兵」といわれたパラシュート部隊を使って無血占領を図り、成功しています。オランダ側もいきなり攻撃してくるとは思わず、油断があったのでしょう。
そもそも石油はインダス川より東のアジアではあまり採れません。インダス川より西には中東に多くの石油生産地域がありますが、第2次世界大戦当時、中東はイギリスの植民地で、そのイギリスも米国による日本への石油禁輸に同調していました。
この禁輸措置は後に「A(アメリカ)B(イギリス)C(中国)D(オランダ)包囲網」と呼ばれます。1933年に日本が国際連盟から脱退した時、全権大使の松岡洋右はたった一人で議場を後にしますが、あのシーンが象徴するとおり当時の日本は世界で孤立し、まったく味方がいない状況でした。近場のインドネシアを攻撃する以外、石油を確保する方法がなかったのです。
インドネシアは日本に占領される前の1940年時点で、日量17.8万バレルを生産していたとされます。日本軍には「それだけ石油があれば燃料は間に合うはず」という計算があったわけですが、実際には日本からインドネシアまでの制海権を確立できなかったので、インドネシアから原油を積んだタンカーを日本に送ろうとしても、ことごとく撃沈されてしまい、インドネシア産原油が日本に届くことはほぼなくなっていきます。
ちなみにインドネシアの石油生産量は現在も日量80万バレル程度ありますが、1970年代の160万バレル以上だったピーク時に比べ半分に落ちていて、国内の石油需要の伸びに追いつけず、今ではインドネシア自身が石油の純輸入国になっています。
日本に限らず現代社会で石油依存をなくすのは、少なくともこの5年、10年は不可能です。今後も石油に依存せざるを得ません。それは100年前から変わっていないし、この先も当分の間は変わらないでしょう。
「停戦合意」後もまだまだ続く? ホルムズ海峡危機
石油依存からは逃れられないとしても、中東依存についてはどうでしょうか。
2024年の実績では、日本が輸入している原油は日量236万バレル、うち中東産が95.1%を占めるとされ、その大部分がペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡を通過しています。その割合は日本が輸入する原油全体の8割以上とされます。
今回は2026年2月からの米国、イスラエルによるイラン攻撃の結果、イラン軍がホルムズ海峡を封鎖、その石油が日本に入ってこないという事態になったわけです。
ただ石油については2026年3月初めの時点で、日本には国家備蓄、民間備蓄合わせておよそ8カ月分が確保されており、政府は3月中に国家備蓄の一部、約1カ月分の放出を決定しています。さらにガソリン価格の値上がりを抑えるために、石油会社に対して「燃料油価格激変緩和補助金」を支給し、全国のガソリン店頭価格を1リットルあたり170円程度に抑えました。おかげで国民も1970年代のオイルショックのときのようなパニックを起こさずに済んでいます。
もっとも、イラン情勢は楽観を許しません。米国とイランは今年6月に停戦合意に署名していますが、両者の戦争がこのまま終わるかといえば、「まず無理だろう」と私はみています。トランプ大統領は7月の時点でもう「停戦は終わった」と言っているほどで、イランがホルムズ海峡の管轄権の放棄に合意して海運が正常に戻るまでには、長い時間がかかるでしょう。
イスラエルに味方せざるを得ない米国政治の「ウラ事情」
今回の戦争の背景には、米国をイラン爆撃に引き入れたイスラエルと中東イスラム諸国との根深い対立があります。
西暦70年にローマ帝国がエルサレムを破壊し、故郷をなくしたユダヤ人が世界に散らばってから、2000年近くがたちました。その間、ユダヤ人はヨーロッパを中心に、商業と金融で生きていくようになりました。産業革命以前の主力産業といえば農業ですが、ユダヤ人はどの国でも土地の所有が認められず、農業を営めませんでした。彼らが商業や金融に強いのは、そんな迫害の結果ともいえるのです。
現代の米国でも小売業や金融業でユダヤ系資本が圧倒的な支配力を持っています。米国にはたくさんのユダヤ系の人たちが住んでおり、たとえば大都市ニューヨークのブルックリン区はユダヤ人街といっていいほどですし、やはり大都市のシカゴにもポーランドなど東欧出身のユダヤ系人口が多いとされています。彼らはその財力を生かして、共和党にも民主党にも多額の献金を行っており、トランプ政権もユダヤ系からの献金が止まれば、政権を維持することができないといわれています。
親ユダヤの立場をとるキリスト教福音派からの支持も重要です。福音派は米国民の4分の1を占めるというほど数が多く、聖書にある「イスラエルを祝福するものは神に祝福される」という言葉を絶対視しています。トランプ大統領も、イスラエルの味方をしないわけにはいかないのです。
ここで詳しくは触れませんが、ユダヤ人の国であるイスラエルとイランなど中東のイスラム教国との対立の激しさは日本人の想像を超えています。そもそもイランはイスラエル国家を消滅させると公言していますし、イスラエルも今度の戦争ではイランやその影響下の過激派組織ヒズボラの軍事力を徹底的に無力化するとしています。
そうである以上、イスラエルが簡単に矛を収めることはないでしょう。そして米国は上記のさまざまな事情からイスラエルを支持せざるを得ない。ホルムズ海峡危機が簡単には終わらないだろうというのは、そういう意味なのです。
米国、ロシア……石油の「脱・中東依存」は可能なのか?
さて、このように中東地域には簡単に消えそうにない戦争の火種があり、そういう中東からの石油輸入に依存しているのはリスクが大きすぎるから、「輸入先を分散するべき」との意見が見られます。理屈としては正しいでしょう。
ですが現実には、「では代わりにどこから石油を調達するのか?」ということになります。石油の生産能力、輸出能力から見れば、有力な候補は米国とロシアということになりますが、どちらも日本が石油を頼るには問題が多い国です。
米国について言えば、現在は自噴する油田ではなく、主にシェールオイルを生産しています。これは地層を爆破して水を注入してくみ上げるもので、何もしなければそのまま地下にある石油です。米国としては、枯渇するまで無理をして石油を掘るつもりはないでしょう。調査だけしてそのまま置いておけば、いざというときの備えになります。中東の石油が安いうちはそれを買って、自国の石油は「備蓄」としてそのままにしておけばいい、という考え方です。
言い換えれば米国は、いつでも好きなときに石油の生産をやめることができるのです。太平洋戦争前ではありませんが、ちょっと何かあったら「やっぱり石油を売るのはやめた」となりかねず、ここに依存することは中東以上に危ないことだと思います。
ではロシアはどうでしょうか。
ロシアはウクライナとの戦争で日本との貿易の多くを止められていますが、日本はいまだにロシア極東のサハリンの2つの油田から、液化天然ガス(LNG)と原油を輸入しています。ロシアからのLNGは日本の全輸入量の1割近くを占めており、「日本のエネルギー供給に不可欠」ということで、原油とともに米国による経済制裁対象から特例で除外されているのです。
ただ、ロシアに依存することの危うさは説明するまでもなく「米国以上」です。石油であれLNGであれ、輸入全体の1割で十分でしょう。プーチン政権はまったく信用できませんし、たとえこの先プーチンが失脚し、民主的で国際的なルールを守る政府ができたとしても、いつまた独裁国に逆戻りするかわからず、決して依存してはいけない相手といえます。
では日本国内で未知の油田を開発することはできないでしょうか。陸上には期待できませんが、「尖閣諸島の先の海底に石油が眠っている」という説があるようです。が、果たして商業ベースで生産できるのかというと疑問です。たとえ石油が存在したとしても日本の全消費量を賄えるはずもなく、掘り出すのに国際価格の何倍ものコストがかかるとなれば、存在していないのと変わりません。
結局のところ、石油依存がやめられないのと同じように、中東依存も現実的にはやめられないのです。
「条約は守って得なら守る、損なら守らない」──国際社会の現実を直視せよ
さて、3つの依存の最後、米国依存についてはどうでしょうか。
こちらも残念ながら当分の間、やめることはできそうにありません。最大の理由は、日本単体の防衛力では、中国あるいはロシアによる国土の侵略を防ぐことができないからです。日本国民の安全を守るという意味では、北朝鮮が開発した弾道ミサイルによる攻撃も、米国の技術なしで防ぐことは難しいでしょう。
中国は年々軍事費を増額させており、令和7年版の『防衛白書』によれば、中国海軍は今や空母3隻を含め690隻に達する大量の艦船を所有しています。過去5年間で原子力潜水艦だけで新たに10隻を配備しているのです。
日本には原子力潜水艦はありませんし、核兵器もありません。空母に近い艦船はありますが、そこに艦載される戦闘機やそのパイロットはごく少数です。一方、米国海軍は原子力空母だけで11隻を保有し、その1隻でも中国の空母全3隻を凌駕する戦力を持っています。日本は米国海軍と空軍、宇宙軍の助けなくしては、中国やロシアに対抗することはできないのです。
日本の国会で野党が「永世中立」などと言っていますが、はっきり言って空理空論です。日本がそんな建前を言っても、中国やロシアが聞いてくれるわけではありません。
問題は、実際に中国あるいはロシアと戦争になったときに、米軍が日本を助けてくれるかどうか、ということです。
米国から見れば日本は、本土からハワイの2倍も遠い海の向こうの国ですし、もとは敵国です。「そんな連中を守るために、我々の兵士の血を流すのか」という声がもし高まれば、日米安保条約があったとしても、米国政府は何のかんのと言い訳をして、兵を出そうとしないでしょう。
日本人の多くは勘違いしているようですが、条約というものは、守ったら得になると思えば守るけれども、守ったら損になると思えば守らないという、その程度のものです。それが国際政治の常識で、この点、日本人は戦前と相変わらず世界の常識に疎いままだと私は感じます。
ただ、軍事力を支える軍事産業において、日本と米国は実は相互依存の関係です。
米国のボーイング社は世界の航空機産業のトップですが、主力機の「B787」は機体の3割以上が日本製といわれています。中でも炭素繊維の製品などは、日本の東レが一括受注しています。
半導体産業では、韓国のサムスンやSK、台湾のTSMCなどが世界のトップに君臨していますが、素材や製造装置の多くには日本の製品が使われています。その意味では、日本はそれほど弱い立場ではないともいえます。
太平洋戦争前、米国政府が日本に突きつけてきた条件は、「中国大陸から完全に撤退し、満州国は消滅」といった、日本としては到底受け入れることはできない内容でした。
幸い今の米国は、たとえトランプ政権といえども、当時の米国政府ほどめちゃくちゃなことは言ってきません。とりあえずトランプ大統領が気を損ねないように顔を立てつつ、同盟関係を維持しなくてはいけないでしょう。くやしいけれど。
(本記事は、執筆時点である2026年7月18日の情報に基づいています)
(構成=久保田正志)