人はみな認知バイアスの罠に陥っている

前回(http://president.jp/articles/-/21540)「認知バイアス」について簡単に触れたが、いまやネットで「認知バイアス」と検索すれば、数多くのバイアス例を知ることができるし、解説書もたくさん出版されている。そして、人間一般に見られる認知バイアスを知ることは、ことのほか楽しいし、新しい知見を得て賢くなった気分にもなれる。

たとえば、ほとんどの人間は自分の知能やスキル、性格などに対する評価が甘くなる「楽観バイアス」を持っており、それを証拠づけるデータや事例は事欠かない。仕事を引き受けたときには、納期や締め切りに間に合うと思っているし、結婚するときには、誰もが「自分たちは離婚しない」と考えている。運転手の9割は、自分の運転能力は平均以上だと思っている。私自身を振り返っても、耳の痛いことばかりだ。

あるいは、一度申し込んだ定期購読の雑誌やメルマガを、読みもせずに継続している人は少なくないはず。これは「現状維持バイアス」と呼ばれるものだ。さらに、身内びいきの「マイサイド・バイアス」や、自分の思い込みに対する否定的要素を受け付けない「確証バイアス」など、挙げていけばキリがない。

いずれにしても、こうした認知バイアスは、人間の不可思議で非合理な性質を教えてくれるし、それを知った自分は俯瞰的な視点に立った気になる。多くの啓発書でも、認知バイアスをまぬがれるためには、自覚することが第一歩だという結論で終わるものが多い。

しかし、認知バイアスは、直感的に知ったり自覚したりすれば治るようなものではないと、哲学者のジョセフ・ヒースは『啓蒙思想2.0』(NTT出版)のなかで力説している。

<知識は私たちを解放するか? 残念ながら、心に関しては、答えはノーである。バイアスについて知っているだけでは、バイアスにかかりにくくはならない。それどころか、知識は逆効果になりかねない。バイアスのことはよく知っている、まさにそのために、影響を免れられると思い込んでしまう>

もちろん、まったく知らないよりは知ったほうがいいし、注意すればいくらかは誤りにくくなることだってあるかもしれない。でも、その効果はたかが知れている。