医者は信用できんし、もう、手遅れなんじゃ。
ワシにはわかっておる。
新ちゃん、悪いが、遺言の用意をしてくれんか?

 

ゆ……遺言!?
(いま、じいさんに死なれたら、オレも痛い……
なんとかしなきゃ……)

 

モワワ~ン
これ、使ったら?

 

わ! スミヤン!
なにこれ?

 

どんな病気でも治るクスリじゃ。

 

ほんと!?
それちょうだい!

 

……おまえは本当におめでたいヤツじゃのう。
ウソに決まっとるじゃろう。
これは、小麦粉じゃよ。

 

バカ!
小麦粉で病気が治るかよ!

 

ところがどっこい、ニセ薬でも治るときがあるんじゃ。
アベノミクスで景気回復したのもニセ薬の効果だしな。

 

え?
ニセの薬で景気回復?
どういうこと?

 

アベノミクスで株価は大幅に上がった。
日銀の黒田総裁が「大胆な金融政策」を宣言したからだ。
日銀はカネを大量に刷って、
銀行を通して世の中に出回るカネを増やそうとしたのだ。
カネを大量にバラまけばどうなると思う?

 

えーと、カネの値打ちが下がるから
モノの値段が上がるんじゃない?

 

そうじゃ。
モノの値打ちが上がればデフレ(物価が下がること)が解消され、
景気がよくなると期待された。
ところが、実際には世の中に出回るカネは増えなかった。

 

なんで?

 

実は不景気で、銀行からカネを借りる会社や
サラリーマンが少なかったのだ。
そこで、銀行は日銀から受け取ったカネを、
日銀に送り返して日銀の預金口座に預けた。

 

カネが日銀に戻ってきちゃった!

 

そうじゃ。
だから、結局、何も起きなかった。
それでも株価は上がった。

 

そんなことあるの?

 

医者が「これはよく効く薬だ」と言うと
小麦粉でも患者が治る場合がある。
これを「偽薬効果」と呼ぶ。

それと同じで、実際には世の中にカネが出回らないのに、
「出回る」と言い切ったので、株価が回復し、景気が良くなった。
日本経済の不況という病が治ったのだ。

 

でも、黒田総裁の予想は間違ったんでしょ?

 

そうじゃ。
だが、間違えたことを信じた信者たちが株を買ったので
信者たちも儲かったし、日本経済も景気が回復した。
大事なのは、ニセの薬でも本気で
「これは絶対に効きます!」
と言い切ることなんじゃ。

 

新ちゃん、そこに誰かいるのかい?

 

あ!(スミヤンは他人には見えないんだった……)
なんでもないっす!
この薬、どんな病でも治る我が家の家宝です!
絶対、効きますんで!
ウソだと思って試してください!!

 

そんな貴重な秘薬を……このワシに……。
新ちゃんがそこまで言うなら……。

 

(不安げな表情で)じ……じいさん、どう?

 

むむむ!

なんか元気が出てきたぞーい!
さすが家宝の薬。
新ちゃんのおかげじゃ!!

ホッ!
偽薬効果ってホントなんだな。

 

金融市場って投資家の期待で動くものなんだね。
アベノミクスの心理的効果で株価は上がった。
でも、いまもデフレを脱却できていない、ということは、
企業や主婦はアベノミクスがニセの薬だと見抜いているのかな。

 
監修 塚崎公義
久留米大学商学部教授。1981年、東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。経済分析、経済予測などに従事し、2005年に退職して久留米大学へ。『なんだ、そうだったのか! 経済入門』など著書多数。
(監修=塚崎公義(久留米大学教授) 作画=室木おすし [第10回テーマ=アベノミクス])
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