[マンガ]「安売り戦略は危険」の理由
第6回テーマ=囚人のジレンマ
最近あんまり儲からないのよ。
価格競争ってやつ。
お客さんはネットで値段を比較するでしょ。
1円でも安いところから買うの。
安売り競争はだめっすよ!
百貨店の外商マンは、価値あるものを1円でも高い値段で売るっす!
安売り競争は「悪」だってよく言うじゃない。
でも、なんで「悪」なのよ。
安くしないと売れないからしかたないじゃない。
安売り競争がダメな理由は!
……あれ?
売り上げが下がるから?
なんでだっけ?
安売り競争がダメな理由、それは「ゲーム理論」で説明できるボヨーん。
ゲ! スミヤン!
商談中に出てくるなって!
……ゲーム理論?
「ゲーム理論」のなかで有名な「囚人のジレンマ」という話を知っとるかね?
ボヨヨ~ン
おまえが相棒と2人でデパート強盗をはたらき、見事にアホな顔で捕まったとしよう。
2人は別々の取調室に入れられ、
検事が司法取引を持ちかけてくる。
おっす! おれ検事!
2人とも殴ったことを認めなかったら、強盗罪にはできないから、ともに窃盗罪で懲役1年だ。
だが、相手を裏切って「あいつが殴った。オレは殴ってない」と証言すれば無罪放免にしてやる。
裏切られたほうは、強盗罪で懲役8年だ。
ただし、2人とも裏切った場合、お互い強盗罪で懲役5年となる。
さあ、どうする?
あいつのことだから、裏切るかも。
オレが裏切らなかったら懲役8年か。
裏切ったら懲役5年で済むのだから、オレも裏切るしかない。
裏切ったほうが罪が軽い!
相棒が裏切ると決めてかかるのは失礼じゃろう。
じゃあ、相棒が裏切らなかったらどうなる?
裏切れば無罪放免、裏切らなければ懲役1年なんだから、当然、裏切るよ。
あれ? どっちにしても裏切るほうが得なんだ!
正しい。それで正しいのじゃ。
合理的に行動しようとすると、
お互いに「裏切ること」を選ばざるえない。
個人にとってはそうでも、全体(2人)で見ると、合理的とは言えんのだ。
2人の懲役の合計年数で見てみるとわかりやすい。
2人がそれぞれ合理的な判断をした結果、5年+5年で10年となる。
これは、そのほかのどの組み合わせよりも長いのだ。
合理的に行動した結果が、全体にとっては望ましい結果にならない。
これが「ジレンマ」というわけだ。
わからんのか?
安売り競争も「囚人のジレンマ」と同じってことじゃ。
わかった!
一方が安売りを止めると、
続けた方に客が流れて儲かる。
止めた方は大損する。
だから結局、両方ともやめないってことか!
でも、それって永久に止められないの?
「囚人のジレンマ」は「互いに連絡を取れない」という設定じゃ。
だがもし、囚人同士が協力できる状況ならば、全体として良い結果になる。
お互いに罪を認めなければ、2人の懲役は合計2年で済むのだ。
わかった!
「お互いに安売りは止めよう」と約束すればいいんだね。
新ちゃん、何をブツブツ言ってるの?
頭だいじょうぶ? ちょっと横になる?
私も一緒に寝ようかしら。
ジャーン
これは客に言っているように見せかけて、
視察にやってくるライバル店に言っておるのだよ。
「ここらへんの値段にしましょうや」と。
なるほど! そうだったのか!
「そっちが値下げすれば、うちも値下げするぞ」と
宣言しておけば、ライバル店が値下げしようと
思わなくなるからね。
安売りはダメってよく言うけど、
ちゃんとした理由を説明しろといわれたら難しい。
やっとわかったよ。
こんど、安売りの話になったら、「囚人のジレンマ」って知ってる? と言ってみよっと。
監修 塚崎公義
久留米大学商学部教授。1981年、東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。経済分析、経済予測などに従事し、2005年に退職して久留米大学へ。『なんだ、そうだったのか! 経済入門』など著書多数。
(監修=塚崎公義(久留米大学教授) 作画=室木おすし [第6回テーマ=囚人のジレンマ])