コミーは物語を作り、語り継ぐ会社
万引き防止ミラーを作るうち、「凸面ではなく、フラットで視野が広いミラーはどうしてないのだろうか」と素朴な疑問を抱き、そこからコミーの主力商品となるFFミラーが生まれた。この世界初の製品は「1991年東京発明展」で奨励賞を受賞するなど評判を得た。凸面ミラーでも新商品を次々と開発、コミーはミラーメーカーとして大きく成長していった。
そんなコミーを96年に大きな事件が襲う。ある万引き防止に関する本の一節に「防犯ミラーは効果がないどころか、万引き犯に販売員の動きをチェックされ逆に悪用されている」という趣旨のことが書いてあるのを見つけた。著者に急ぎ抗議文を送ると共に、本当に万引き防止の役に立っているのか徹底的に調査した。顧客店舗を訪問するときは、営業よりも防犯ミラーの効果の確認を優先するように全社員に伝えた。
さらに、利用現場を訪ね、実際に使っている人の話を聞くことで、ミラーは万引き防止に役立っているという確信が得られた。結局、著者が内容を訂正することはなかったが、「頭の整理ができて役に立った」と小宮山は言う。
コミーでは今まで自身や会社に起きた出来事、課題や取り組み、考えたことなどを「物語」としてまとめ、冊子を作っている。上記の事件は『「万引問題」物語』にまとめた。この他、航空機用ミラーが生まれるまでの『航空機業界参入物語』など今までに30作品ほど制作した。これも社員の重要な仕事である。
小宮山は「コミーは『物語を創る会社』だ」と言う。忙しさに流されず、過去の経緯や教訓を残して組織内に蓄積していくことが経営者の役割だと考えている。
先日も、また物語になりそうなプロジェクトを始めた。本社近くにビルを1棟購入し、「komyQIセンター」を開設する。Qはクエスチョン、Iはイノベーション、インタレスティング、イマジネーションの象徴だという。
「ここでは技術をとことん追求することが好きな人達に集まってもらい、鏡を深めつつ、鏡以外でもユーザの役立つ新しい商品を開発したい」と語る小宮山は、外部の面白い人々も自由に集まれる場にしたいと考えている。小宮山はこうした出会いを生み出す一種の天才でもある。気になる人がいれば自ら出かけていき、たちまち仲良くなるし、頻繁に会社にさまざまな人を呼んで講演会を開く。
2006年には小宮山が「面白い人達」という知り合いと一緒に国際箸学会を設立した。
「箸は民族も年齢も問わず、誰でも使えて共通の話題になる。そこから出会いの喜びも生まれます。いろいろな人間を集める“箸渡し”をしてくれるのです」
箸の使い方や歴史などの講演会や、マイ箸づくりなどの講習会も開いている。殻付ピーナッツを皿から皿へ箸で移動させる「箸ピー・ゲーム」を生み出し、真剣に海外に広げようと、「箸りんぴっく」という大会も開いている。
「面白いことになってきたな~」と口癖のように語り、いつの間にか周囲を巻き込んでいる。小宮山にとってコミーも箸学会などの活動も同じ土俵である。人と出会う喜びこそ、小宮山のすべて原動力のようだ。
(文中敬称略)
●代表者:小宮山栄
●創業:1967年
●業種:防犯・安全確認用ミラーの製造販売
●従業員:34名(パート含む)
●年商:9億円(2016年度)
●本社:埼玉県川口市
●ホームページ:http://www.komy.jp/