本当に役に立たなければ売らない

コミーは何よりもユーザに役立つことを重視しているが、そのユーザとは注文を出してくれるカスタマーよりも、商品を実際に使う利用者達だ。万引き防止ならば店員、衝突防止ならば通行者、航空機ならば乗客と客室乗務員である。

実際にミラーを設置してみないと効果が分からないことも多いので、「無料貸出制度」を設け、すぐには売らずにまずは使ってもらって、役に立つと分かってから買ってもらう。

「たくさん種類がある中で、本当に役立つ商品を選んでもらえれば追加注文もあるかもしれないし、業界全体で採用される可能性も高くなります。役に立たないものを提供しては絶対にだめです。何より、役に立つ商品を見つける努力をコミーも一緒に行うことで、鏡について勉強をさせてもらえるのです。それが、次の販売促進につながるし、お客さんとの付き合いも深くなるのです」と小宮山。

FFミラーは世界100社以上のエアラインに納入している。

売るまでだけでなく、売った後もしつこくフォローする。必ず納品後に現場調査に行き、本当に役立っているか聞き取り調査を行っている。

これまでに、こんなことがあった。エレベーターのカゴや三方枠に貼ってあるFFミラーが役に立っているのか調査した結果、ミラーに「気づかなかった」「何のために使うのか分からなかった」という声が多かったのだ。ドアが閉まる前に乗り込もうとしている人がいないか、ドアに挟み込みがないか確認する目的なのだが、その目的が分かってもらえていなかった。

「説明しなくても使い方が分かるというのは、勝手な思い込みだったのです。以降、エレベーターなら『乗り残し・挟み込み防止ミラー』、航空機なら『忘れ物を確認してください』など使い方を表示するようになりました」

ある小売店では、当初、万引きなどの監視用にミラーを導入したが、次第に店員の視線が顧客を刺すような目つきになっていることに気づいた。これではお客に失礼だと、ミラーの使い方を『監視』から『思いやり』『気くばり』に変更した。例えば、ミラーに映った顧客が探し物をしていたら、顧客が声をかけやすいように店員が移動する。商品を抱えていたら、さりげなくカゴを手渡すようにした。

すると、店員が顧客をサポートするスタンスに代わり、視線も穏やかになり、監視のときよりもミラーを利用する頻度が上がった。その結果、店員と顧客の接触や会話が増え、万引きが減少して売り上げが増えたという。聞き取り調査をした営業からこの話を聞いた小宮山は驚いた。「万引き防止だけでなく、お客様への気くばりのできる店作りに役立ちます」と、セールストークを変え、商品を“気くばりミラー”と呼ぶことにしたという。

航空機用のFFミラーにも意外な使い方があった。従来、背の高くない乗務員が手荷物入れを確認・点検する場合、座席のステップに足をかけ、のぞき込まなければならなかった。折り返しやその先のフライトがある場合、時間がかかるのは大きな無駄である。FFミラーを確認することで、こうした作業が楽になり、次のフライトまでの作業時間を短縮できたためエアライン各社に歓迎されたわけだ。

コミーでは、こうした点検作業は忘れ物の確認のためだけに行っていると思っていたが、ある欧州のエアラインに話を聞いて仰天した。そこでは、ミラーを爆弾チェックにも使っていたのだ。テロが頻発する昨今では納得できるが、聞いてみないと分からないものだと小宮山は改めて思ったという。