プーチン大統領はいつまで戦争を続けるのか。拓殖大学客員教授の名越健郎さんは「公の場では徹底抗戦を崩さないが、占領地を恒久的にロシア領とすることを条件に前線での停戦に応じる『新提案』を密かに用意したとの情報がある。9月の下院選を控え、反戦世論の台頭を恐れている模様だ」という――。
プーチン大統領・文化評議会の会合(テレビ会議形式)において
プーチン大統領・文化評議会の会合(テレビ会議形式)において(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

プーチンがウクライナに送る「新提案」

ロシアのSNS、テレグラムで発信する独立系情報チャンネル「Insider-T」(6月14日)によると、プーチン大統領は6月13日、政権中枢の非公開会議で、ロシアが支配する占領地をウクライナがロシア領と公式に承認するなら、現在の前線を「国境」として停戦に応じる用意があるとの新提案を策定した。大統領に近い情報筋の話としている。「Insider-T」はしばしばクレムリンの内部情報で特ダネを飛ばしており、この情報はロシアのSNSやネットで拡散した。

「Insider-T」はこの提案について、暫定的な境界線では、ウクライナがいずれ北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けて軍事的に奪還を狙う恐れがあり、それを阻止するため、領土を法的、国際的に画定するのが狙いとしている。新提案は近く、非公式ルートでウクライナ側に伝達されるという。

プーチン政権は、ウクライナがこれを拒否するなら、「特別軍事作戦」を継続し、領土をさらに制圧すると警告しているという。大統領側近はこの提案について、「プーチン大統領が退陣した後も、ロシア領土の不可侵性を保証するものだ」と指摘した。

ロシアは現在、クリミア半島を含めウクライナ領土の約20%を支配しているが、情報が事実なら、占領地を恒久的にロシア領とすることで停戦に応じる方針に転換したことになる。

開戦時から大きく後退した戦争目的

この提案はロシアの一定の譲歩を意味する。ロシアの停戦条件は徐々に変わっており、プーチン大統領は2022年2月の開戦時、戦争目的として、ウクライナの中立化、政権交代を意味する非ナチ化、非武装化、南東部4州のロシア併合などを挙げた。

昨年1月のトランプ政権発足後は抽象的な「ウクライナ問題の根本的解決」を主張するようになった。プーチン氏は今春以降、ウクライナがドンバス地方を全面割譲すれば、停戦に応じると言い始めた。

ロシアはドンバス地方を構成するルハンスク州をほぼ制圧し、ドネツク州の約8割を支配するが、ウクライナ側はドネツク州の残りの領域を要塞化して抵抗し、撤退要求を拒否している。

今回の提案が事実なら、ロシアは難攻不落となったドネツク州の残る20%の攻略を放棄したことになる。

プーチン政権が停戦を意識し始めた背景には、戦況の悪化や国内の厭戦気分がありそうだ。

東部の戦況は今年に入ってウクライナ優位に転換しており、米国の戦争研究所によれば、ウクライナ軍は戦場で主導権を握り、4月に116平方キロメートル、5月に281平方キロメートルの領土を奪還した。ウクライナ軍の本格的な領土奪還は3年半ぶりという。