「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。

かのドラッカーは著書の『イノベーションと企業家精神』で「イノベーションの機会は7つある」と述べている。そのなかで最も重要なのが「予期せぬ成功と失敗を利用する」ということ。企業の経営戦略に詳しい東京理科大学大学院の宮永博史教授が解説する。

「事業計画は内容がしっかりしていても、しょせんは結果がわからず不確実。一方、予期せぬ成功と失敗は結果がすでに明らかだ。しかも想定外の結果で、新しい発見が得られる。それを根拠に経営戦略を組み立てることが、リスクの低い事業化への近道なのだ」

コミー代表取締役 小宮山 栄氏●1940年、長野県生まれ。62年信州大学工学部卒業後、ベアリングメーカー勤務などを経て、73年に看板業のコミー工芸(現在のコミー)を設立。2006年、国際箸学会を設立し、会長も務めている。

さらに注意すべきなのは予期せぬ成功で、ドラッカーはそれが「ほとんど無視される」と指摘し、その理由を突き止めようともしないことに警鐘を鳴らす。そして、その予期せぬ成功からアイデアを引き出す企業として宮永教授が注目しているのが、埼玉県にある業務用特殊鏡メーカーのコミーだ。

コンビニエンスストアやスーパーなどで、カーブミラーのような鏡を見かけたことはないだろうか。防犯や衝突防止に利用されている、そうした店内凸面鏡の市場を開拓したのがコミーだ。また、金融機関のATM(現金自動預払機)に、暗証番号読み取り防止用の“後方確認ミラー”が普及しているが、これもコミーが開発した。旅客機の手荷物入れ(ビン)のなかには、チェック用の鏡がよくついており、その多くもコミー製。ボーイングやエアバスといった大手航空機メーカーに採用され、延べ18万枚超のコミー製の鏡が世界の空を飛び回っている。

コミーの取扱製品は、主なアイテムだけで50種類以上。特殊鏡の市場規模はきわめて小さいが、それゆえに大企業は参入しにくい。防犯・衝突防止用特殊鏡の国内シェアのうち、約8割をコミーが握っているという。