「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。

「まさおでなければダメ」という人たち

筑水キャニコム会長 包行 均氏●1949年、福岡県生まれ。72年第一経済大学(現・日本経済大学)卒業後、近藤鉄工入社。73年筑水農機(現・筑水キャニコム)入社。営業本部長を経て、91年、創業者である父の後を継いで社長に就任。2012年から現職。

「草刈機まさお(乗用草刈機)」や「ブッシュカッタージョージ(立ち乗り式大型草刈機)」「三輪駆動静香(電動アシスト三輪車)などなど、ユニークな駄洒落ネーミングの連発で日刊工業新聞のネーミング大賞を7年連続で受賞している運搬車・草刈機メーカー、筑水キャニコム(福岡県うきは市)。

とかくネーミングの妙ばかりが話題にされがちだが、実はこの会社、社員約200名と小規模ながら年商約50億円を誇り、世界40カ国への輸出実績を持つ。その原動力は、抜群の商品開発力にある。会長の包行均が言う。

「たとえば草刈機まさおの場合、環境が厳しい地域に行けば行くほどシェアが大きくなります。九州なら宮崎の高千穂町や熊本の小国町。こうしたうちの商品じゃないとダメという地域が、日本にも世界にも点々とあるのです」

急傾斜地では、一般の草刈機では登坂できなかったり横滑りしてしまう危険性があるが、「AWDまさお」は最大斜度25度まで対応可能。さらに刈り高(刈り残す草の高さ)を0ミリから150ミリまで調節できる独自機能も備えているため、1台100万円前後と草刈機としては高額であるにもかかわらず、「まさおでなければダメ」という、人々が存在している。

「世の中全体がコストコストと言うせいで、安い物を作れば売れると思っている人が多いですが、そんなことはありません。うちのお客さんは、本気で農業をやっているプロ中のプロ。そういうお客さんに、高くても買ってもらえる機械だけを作っているのです」

そして、確実に購買につながるニーズをキャッチするために、客の「ボヤキ」を収集しているというから面白い。

商品を購入してくれた客のもとに社員が訪問し、ビデオカメラの前で買った商品についてボヤいてもらっているというのだ。なぜ、ボヤキがニーズのキャッチに役立つのか。

「ボヤキとクレームは違います。クレームは不具合に対する苦情ですから、対応して処理しなければならない話。わざわざクレームを聞きたがる人間なんていません(笑)。ところがいいボヤキは、わが社の未来につながるのです」

包行によれば、ボヤキには“ABC”3つのランクがあるという。

まず、最低のCランクは、「値段が高いね」とか「もうちょっと安くならないの」というボヤキ。

Bランクは、「このレバー少し重いね」といった、商品を使った感想だ。商品の改良につながるボヤキであり、実際、最新のまさおに装着されているアシストグリップ「トッテツケマシタ」は、「ここに取っ手がついていたら便利なのに」という客のボヤキから生まれたものだ。